短編小説B 

□『不実のリンゴは牙をむく』
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「ね…ねぇ、獄寺くん、大丈夫…?」
 ツナは押し倒されたまま上を見上げる。

 両肘で上体を支え、うぎぎぎぎっ、と耐え忍ぶ獄寺。
「はっ、はいっ! お気遣いなくじゅうだいめぇ…!ご心配には及びませんっ」
(試練だ!試練だ俺!)
 両肘をぷるぷる言わせながらニカッと笑う。その背中には平常時と違う、大きくなった瓜の姿。

 グルグルニャ〜ン♪と太い声で甘えながら、獄寺にスリスリと擦りよる。
 その脇に、『マタタビ酒』と書かれた瓶が、コロンと転がっていて。

(ちくしょう、いつだ!?
さっき買い物に出た時か!?)
 不意に遊びに来られた綱吉が、コーラを飲みたいとご所望したので、颯爽と買い物に出掛けたのだ。
 その間に、対瓜専用懐柔の秘策が、渦中の猫(?)にすっかり平らげられてしまったらしい。

「瓜…酔っ払っちゃったんだねぇ」

「全くお恥ずかしい…面目ないっス」
(10代目の見てない所で手懐けて、褒めてもらうつもりだったのに)
 獄寺はトホホ、とうなだれる。

「なんで? 可愛いじゃん」
 ゴロニャ〜ン、と甘える鼻面が、獄寺の肩越しに綱吉を覗いて、ツナは鼻先をスリスリとさする。

 ゴロゴロとなる喉の音。
(ふふ…可愛い―…)
 気持ち良さげに細められたルビーの瞳。
 なんせ普段小動物にも馬鹿にされる綱吉なのだ。匣兵器とはいえ、生き物に甘えられると嬉しい。

(でもさぁ)
 チラッと綱吉は再び視線を上げる。

「ねぇ、その体勢、ツラいでしょ? いいよ別に、オレに寄りかかっても。
瓜と君ぐらい、重くも何ともないから」
 善意で告げているのに、獄寺はとんでもないっっ!!とぶんぶんと首を振る。

「10代目にそんな恐れ多いっ!! 大丈夫っス! 自分、あと一時間は持ちこたえられますからっ!その頃にはコイツの酔いも覚めてますでしょうしッ」
(10代目に寄りかかるなんてそんな!! こんな状況で密着したら俺、色々と自信ねぇっつーか、特に下半身の爆発ってか暴走が抑えきれねぇっつーか…っ)
 既に、この状況にムラムラしてくる元気な自分の分身が恨めしい。

(10代目は自分の気持ちを微塵もご存知ないのに〜!!)
ひぃい、となる。

 軽くいなされ、綱吉はムッとする。
「何それ、オレだって男なんだから大丈夫だよ」
 そう言って、えいっ、と脇腹を擽る。

「うひゃあ…///!?」
 叫び声を上げて体の力が抜け、獄寺はべしょっ、と綱吉の上に崩れ落ちた。

「すすす、すいませ…っ」
ガバッと起き上がろうとするも、一度崩れてしまうと立て直しがきかない。
(うわあ、細せえ腰、細せえ肩…!)
 ドキドキバクバク!
 心臓の音が止まらない。
 ダラダラと汗を掻く。

「んもう、大丈夫だってばっ」
ちょっとプンとなる。
(大丈夫なのに…あれ? でも…)
 押し倒されて、直接感じる人肌の温かさと心地よい重みに、段々綱吉はカァアッと顔が熱くなってくる。

(大丈夫なんだけどこれってなんか、すごい照れるかもっ)
 急に意識して、Σ男同士なのに照れるとかなんだよって、また1人突っ込んで、ぎゃああっっ///、とまた更に照れる。

「す…すいませ…ッ今すぐ体勢を…!」
 獄寺も、どこに手を置いていいか逡巡しながら頭の中がぐるぐるになりパニックになる。

(どこだ、どこに触りゃいいんだ!? どこも彼処も柔らかくってあったかくって、俺に言わせりゃこんなの拷問だ…!)
わきわき、と手が彷徨う。

(うあっ、でも―…)

 ふわり、と鼻腔を擽る、甘い香り。シャンプーの匂い。やべぇ、と思うのも束の間。獄寺の理性はぷつんと切れて、瓜の重みに任せて、きゅっと綱吉の身体を抱き締める。




 
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