短編小説B 

□『ゆりかごに揺られていて欲しかった』
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“君ノ存在ソノモノガ、僕ノ心臓カラ絶エ間ナク、真ッ赤ナ血ヲ流サセル” ト━━━…!


 † † †


「━━…っ…あ!」
 ガバッと布団から起き上がる。

 心臓がドクドクと激しく鼓動を打つ。冷や汗に背中を冷たくしながら、綱吉は震える手で自らの髪をクシャリと乱暴に梳いた。

「…う…ぁ…っ」
 手の震えが止まらない。遂にはガタガタと震えが体中に伝染する。まるで悪い夢に捕まったみたいだ。綱吉は悪夢から逃げるように辺りを見回す。

(リボーン…いない)
 空っぽの寝袋が、酷く寒々しく見える。

━━ああ…そうだ。

『…っ人殺し!お前は人殺しの子だ!お前の父親が、僕の父と母を殺した…っ』

 昼間の出来事が蘇る。

『━…返せ!父と母を返せ!真美を…妹を返してくれ!』

(━━…炎真!)

“許さない”、と━…

 慟哭にも似た叫び。
 許さない、許せはしない!現実を何も理解せず、嫌な事からは逃げるように目を瞑り、なのに、周りからは守られ…愛されて…
 それが、当たり前だと何も知らずにのほほんと…っ

 ギッ、と涙を流しながら炎真は綱吉を睨みつける。


“━…返せ!例え蔑まれ迫害されていようとも、ささやかに幸せだった僕の日常を返せ!
僕は君を許さない!必ず僕と同じ苦しみを味わせてやる!
沢田綱吉…!必ず…っ”

 君は存在そのものが罪なのだから━…




(━…!吐く…っ)
「う…っぷ」
 唐突に込み上げる吐瀉感。

(父さんが炎真を、父さんが、炎真の家族を━…!)

「…じゅーだいめ?」
 労るような獄寺の声にハッとする。

「お目覚めでしたか、まだ夜中です。眠れ、ませんか?何かお飲みになりますか…?」
 異変を察したら直ぐ参じようと傍で控えていた獄寺は、綱吉の気配にすぐさま近寄った。

「10代目?」
 昼間の炎真との戦いを見ていたせいで、遠慮がちに声を掛ける。

「…………」

 黙ったまま虚ろな表情で視線をさまよわせる綱吉。
 無理もない、と思う。
(自分の家族が、他人を殺めたという現実。優しい10代目が受け入れるには、余りにも辛い)

 わかってる。わかってるけど━…!
(けど、掛ける言葉が見つからねえ…っ)
 獄寺はぎゅっと拳を握る。

 情けなくて涙が出そうだ。自分は傷ついた10代目に何も言う事が出来ない。
 何故なら自分はもっと酷いから。自分はもっと利己的だったから。
(組織の為に働く家光とは違う。自分が生きる為に、他人を貶めてきた。その他人に、家族や大事な人がいる事など、微塵も思いもよらず)

 土台、マフィアに綺麗事など存在しない事を、獄寺は身に染みて理解していた。

 こんな自分が、傷ついた綱吉に何を言えるだろう…

 せめても、と自分に出来る事を探す。
(10代目…酷く冷たい。早く温めてやらねーと…)
「待っててください、今お湯を、何か温かいものを持ってきま━…!」
 バッ、と身を翻そうとする獄寺の袖を掴む綱吉。獄寺はハッとする。

「じゅ、じゅーだいめ…?どうかなさっ…「ねぇ、獄寺くん」

 言いかけた獄寺の言葉を遮るように、綱吉は抑揚のない声音で、震える唇から言葉を紡ぎ出す。



 警鐘がなる。
(ダメだ、聞いては、聞いちゃいけない━…!)





 ソレデモ貴方ニ綺麗ナママデイテ欲シカッタ。
 貴方ニ、綺麗ナ世界ダケヲ与エタカッタ。





「━━…人を、殺した事ある?」



 その瞬間、ヒュッと獄寺の呼吸が止まった。





 
━━━


【title:睡恋】
 

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