短編小説B 

□七夕SS
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“七夕の日に、10代目と過ごしたいです”、って。

 呟いたら、10代目は一瞬きょとんとした後頬を染めて、
「え…あ…う…///と」
 口ごもった後、
「…いいよ」
 と、そう、呟いたんだ。



(……10代目、遅ぇなあ)
 チラッと手首の時計を見る。
『遅い』と思っても全然苦ではない。寧ろそう思える事に喜びすら感じながら、獄寺はソワソワと綱吉を待った。

(だってよお、七夕の織姫と彦星じゃあるまいし、俺と10代目は会おうと思えばいつでも会える、こっ、こっ、こっ、恋人同士なんだし…!///)
 ヘヘッ、と笑みが漏れる。

『恋人同士』、くすぐったい響きだ。

 今日は夜が明るい。
 神社の裏手、少し高台にあるこの場所、俺は真下に広がる家々に灯る暖かい光と、夜空に煌めく星々の、凛とした美しさに空を仰いだ。
 神社では小さな縁日が開かれているようだ。離れたこの場所からも、微かな囃子の音が聞こえる。

 清浄な、夜。

「ご…っ獄寺くんお待たせ…っ」
「━…じゅ…///」
 カラン、と響く下駄の音に愛しい人の気配を感じて、俺は後ろを振り向く、とピキッと固まってしまった。

「じゅ…じゅ、10代目!?///」

 そこには女物の浴衣を着て、髪をアップに纏めた10代目が、恥ずかしそうに顔を染め、恥じらうようにもじもじと立ち尽くしていたのだ。


 † † †


「ごめんね、こんな格好で。驚いたろ? 実は出掛けにビアンキに捕まっちゃって」

 俺はついぼうっと魅とれる。
(あー…ツヤツヤの唇、色っぽい…浴衣の襟から覗く項も…なんつーかこう、い…いやらしいしっっ)
 ゴクリと息を呑む。
 いけないいけない、10代目はピュアーなお方なんだから!!
 このような姿を見て欲情するとか、知られたら軽蔑されちまう…!

「獄寺くんと出掛けるって言ったら、ビアンキに弄られちゃって…あの、こうゆうの、嫌じゃない? オレ、変じゃないかな」
「変なんて…! いえ…良くお似合いです。あ、お似合いっつっても、馬鹿にしてる訳じゃねーんスよ!? 本当にすげー綺麗で…!」
 ちらりと上目遣いに伺われ、心臓がドカンと高鳴る。死んじまえよ俺!

「…良かったあ」
 とはにかむ10代目、うっ///可愛い過ぎるっス…!

「せっかく獄寺くんに誘われたんだから、嫌な思いさせたらどうしようって、思ってたんだ、オレ」
 裾に気を付けながらストンとしゃがみ込む10代目。俺は躊躇いながらも、10代目のお側に腰を下ろした。

「嫌なんて…あり得ねーっス!天地が裂けても、それはねぇっス!今日は来て下さっただけでも嬉しくて…
ここの夜景、綺麗でしょう? 10代目と二人で、見たかったんスよ」
 理性と本能のせめぎ合い、葛藤しながら、ええい!!と、そっと10代目の手を握る。
 10代目はボンっと赤くなられて、それから「なんだぁ」と小さく安心したように呟かれた。

「夜景、だけかぁ。オレ今日は、獄寺くんに何かされちゃうのかと、緊張して来ちゃったよ」
 エヘヘ、と笑いながら爆弾発言を落とす。

「じゅじゅじゅ、10代目ぇえ!?///」
「━…え、あっっ!?」
 しまった、と口を噤む10代目。

 俺は信じられない思いで10代目を見つめた。

(…では、この方は、俺に『そう』されてもいいと、決意なさってここへいらしたのか…)
 思わずへにゃり、と顔が緩む。

「━…10代目」
「なっ、何…!」
「顔、見せて下さいよ、何で背けるんスか」
 ニヤニヤ笑いが止まらない。
 だってソッポ向いた項が真っ赤で、
余所を向いた瞳は、眼もとを羞恥に朱く染めていて。


『天の織姫もかくあらん』


(あなたはいつもそうやって)
「…え!? うそッ、ちょっとヤダ! 獄でらく…ッん━…ッ」
 柔らかく細い髪に、指を這わせ、優しく梳く。

(俺の理性を容易く手折り、無意識に俺を煽って、貴方という美しい鎖で縛りつけるんですね)

「いや…」
 否定の言葉を飲み干すように唇を塞ぎ、舌を絡めて。

「んん…」
 は、と、漏れる息遣いだけで、身体の奥が熱く疼めき、ざわめく。

「じゅうだいめ…俺、」

「…ごくでらくん…?」
 そっと押し倒し、華奢な身体を組み敷く。
 浴衣に直接、青い草の草いきれ。

 見上げる瞳は、怯えを含みつつも、甘い乳を湛えたようだ。

「…俺、今夜ここで、貴方に溺れていいですか…?」

 夜空にミルキーウェイ。
 笹の葉の、風に揺らめきザッと響く音。

 視界は10代目という満天の輝き。

 俺の理性は、脆くも崩れ去り天の川の彼方へと消えた。







 

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