短編小説B 

□標的364の妄想
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「…眠れないのか? ツナ」

 寝返りを打ったツナの耳に、山本の声が響いた。




 † † †




「あ、ごめん。起こしちゃった?」
 ごそっと身動きしてツナは山本の方を見た。電気の消えた薄暗い部屋、隣に寝ている獄寺はどうやら爆睡しているようだ。けれど、ツナは起こさないように小声でそっと返事をする。

「いんや、元から起きてた。なんか、起きてる気配がしてたからさ」

「…うん」
 山本の、静かな優しい声に、枕に埋まるように、ツナはポスッと頭を落とした。

 暫し間を取る山本。次の句を続けないツナに、山本は少し考えたあと天井を見上げながらボソッと呟いた。

「……親父さんの事か?」

「ッえ! 何で分かるの!? 山本!」
 言い当てられて、またガバッと起き上がる。ん、と身じろぎした獄寺にはっとして、獄寺を挟んだまま互いにしーっ、しーっと、人差し指を立てる。

「いや…報告会の時から、ツナの様子見てたらなんとなくな…。
ツナ、変だったろ? 様子」

「山本…」

 労るような声音。ツナはびっくりして目を見開く。
(普段から明るくてクラスの人気者でムードメーカーで…
だけどどこか天然で掴めなくてとぼけてて…、だからこんな時、改めて思うんだ)

 山本って、すごいと思う。

 感心したものの、それでもツナは、無言で眉根に皺を寄せふいっと斜め下に視線を投げた。

(言いたくない。何だかとても)
 言ってしまったら、自分が惨めになりそうだ。こんな、どろどろした気持ち。

「負けた事が、そんなに悔しかったのか?」
 話を続けないツナに、山本が核心を付いた。

「っっ!! 違うよ! いや…違…わないけど、でも…っ!
悔しいとかじゃなくて、オレは、負けると思ってなかったから…っ」
 カッとなって反論するツナ。

「だってっ! あんな奴に、負けると思わないじゃないか! あんな、いー加減で…チャランポランで、だらしない奴…っ」
 拳を握りしめながら、独り言のように激高する。





 
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