短編小説C

□『wait a mo!ちょっとまって』
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「あ、ツナくん」

キーンコーン カーンコーン、

「京子ちゃん?」
三限目が終わったチャイムの音、くるりと振り向くと、にっこりと笑顔の京子が廊下を駆けてきた。


※ ※ ※


「今日、獄寺君休みよね」

「うん、風邪引いたんだって。朝、メールが入ってて」
(きょ、京子ちゃんと二人きり…!)
ドキドキしながら、賑やかな廊下を並んで歩く。
心なしか甘い香り。やっぱり可愛いなあ。

「お見舞いとか行くの?」

「あ、うん、聞いたらどうも、薬とか何も用意してないらしくて。
学校終わったら山本と二人で行こうって話してるんだ」

獄寺くんからは、来なくていいって返信きたけど。

『移したりしたら、大変ですから!!』

思い出して、ちょっとムッとなる。

(…大変って、なんだよ)
友達なんだから、こんな時くらい遠慮しなくていいのに。
目を臥せる。

「そう、良かった。じゃあ、これ渡してもらえるかな?」

カサカサという音と京子の台詞にハッと我に帰る。

「何?クッキー?」

「そう。さっき家庭科で作ったの。獄寺くんにって、他の女の子に頼まれちゃって。そして」
カサカサと別包み。
「これは私から。お見舞いに、皆で食べてくれる?」

甘い香りはこれだったのか。綺麗にラッピングされた沢山のクッキー。笑顔で手渡す京子。そういえば、廊下の此処彼処で女子がきゃあきゃあと何人か男子に声を掛けている。どうりで賑やかな訳だ。

「あ、ありがとう」
(京子ちゃんの手作りクッキー!!)
じーんっ、と感激して更にお礼を言い募ろうとしたとき、「きゃーっ」という一際黄色い声が、向こうから上がった。

「『ありがとうっ』て、そう言って、壁、ドンってされたの〜っっ」
真っ赤になって周囲にピンク色のハートを飛ばして、その話題で女の子たちが大騒ぎしている。

「なっ、何? かべどん??京子ちゃん?」
聞き慣れない言葉に首を捻るオレに、京子ちゃんはクスッと笑った。

「“壁ドン”、ツナくん知らない?」

「初耳、何の事?」
何だろう、知らないと遅れてるんだろうか?

あわあわと慌てるオレをジッと見ていた京子ちゃんは、悪戯めいたように瞳を輝かせた。
「ツナくん、ツナくん」

「へ?え??」
そう言って、とことこと両手を広げてオレを壁際まで追い詰めて、トンッと両手を壁に付く。
「ああああの??」
ひいいいいっ、
訳のわからないオレに、クスッと笑ってオレを見上げる。

「“壁ドン”、でーす」
極上の笑顔。
うわあああっっ!

(天使ですかっっ!!)



※ ※ ※
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