お題小説

□『不完全故に捕らわれる』
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 ◇ ◇ ◇


「リボーンのやつがお使い出してさ」
着いたのは某有名デパートの某珈琲専門店の中。

「最高級の珈琲豆が輸入されたから買ってこいって」
グラム量り売りで限定商品の上滅多に入らないもんだから人数欲しくってさー、なんてあはは、と笑う。

「ブルマンですか」

(…何でしょう、この生き物は)
斜め下で揺れる蜂蜜色の髪に視線を這わす。

ショップの中は割と混んでいた。
美形で、妖しい気配を放つ漆黒を思わせる少年と、ふわふわと砂糖菓子のような印象の、華奢で愛らしい少年。
目を惹く異色の組み合わせに、居合わせた買い物客はポウッと魅とれる。


(僕は曾て彼の敵でした)

マフィアのボス候補たる『彼』を、狙い傷付けた挙げ句、彼の言う所の『大事な』仲間を操り傷付け、彼の体を奪おうとしたのです。

(そんな相手を前に、『参っちゃったよー』、なんて頬を染めながらにこやかに笑って)
僕は呆れて溜め息を吐く。

…以前はこんなではなかった、ただ僕に恐怖する、ちっぽけな子供でしたのに。



コポコポと一定のリズムを刻むサイフォン。
陳列棚のコーヒーポットから馥郁と立ち上る、深く苦い香り。
僕は少し酔いしれる。
(ああ…コーヒーは麻薬でしたね)

「100グラム5千…
Σええっ!?? 5千円!?
有り得ない…っ!!だってブルーマウンテンでしょ!?」
タグに書かれた値段を見てがーん、となる。

「…本物の『ブルーマウンテン』というのは、ジャマイカのブルーマウンテン山脈の、標高800〜1200mの特定エリアが産地の豆の事を云うんです。
日本で手軽に手に入る豆の多くは、標高800m以下の麓で栽培されたにもかかわらずブルマンを名乗っているものなんですよ」

僕の言葉に、ひぇえ、そうなの?、と財布の中身を確認する平凡な少年。

(非常に希少価値が高く、滅多に手に入らない…)

平凡? 誰が?

オッドアイの瞳を妖しく煌めかせ、そんな綱吉の姿を斜めに見下ろし反芻する。

(恐ろしい、子供です)
黒曜戦…、あの時対峙した君は、燃えるように澄んだ炎で、一瞬にして僕を浄化し、その存在意義を変えた。

マフィアを憎む気持ちは変わらない。
だが、一番に欲しいものが変わった時、世界は色を変え、この僕を変えた。



恐ろしくて、美しい。



『君が欲しい』
そうして僕は、その後貴方に告白したのです。



(…思えばあれからでした。君の態度が変わったのは)
骸はそっと手を伸ばす。
「…さあ、買い物には付き合いました。付き合って、その代償に貴方は何をくれるのですか?
…ねぇ、」

『沢田、綱吉』

囁いて、
背中から引き寄せて、
するりと胸を撫でて。

周囲に居た女性客が此方を見てきゃああ///っと小さな悲鳴を上げるが、ボンゴレは意にも介さないようだ。

僕の手付きにじっとりと睨みを効かせ、その後誰もが魅とれる微笑を浮かべ、柔らかく否定する。

「代償…? 何故?」

(細く白い首…こんなにも頼りなく、捻り上げれば折れてしまいそう)
壊したい、という衝動。
護りたい、と云う庇護欲。

「…お前に上げる物なんて、何もない」

(純真無垢な瞳…容易く自分の欲望の色で、染め上げてしまえそうなのに)
今はその眼は、愛されてるという優越感に満ちている。

口元にクスリと浮かぶ、妖艶な微笑。

(だって、オレの事好きでしょう?
好きでしょう? 欲しいなら、愛を得られる努力をして当然だ)

僕が、君に捕らわれたのを知っているから。

「うん、でも、ありがとうね、
助かっちゃった━…」

艶やかな微笑、姿態。
この子供はいつの間にこんな業を覚えたのだろうか。






(苛烈の炎に焼き尽くされたい…!)
その炎の様に燃える瞳を屈服させたい。

君を手に入れ、世界を変えて。
(君ニ従属シ、君ノ名ノ元ニ世界ノ憂イヲ払ウ)


支配するモノと支配したいモノ

「…恋とは、相反した感情が交錯する、不完全なものですねぇ」

「え?」

諦めの境地でやれやれと手を上げ ぼそりと呟いた僕に、訝しく首を傾げ、きょとんと問いたげに見上げてくる幼い相貌。

「━…だからこそ魅力的なんですが」
フッと笑う。

「な…っ///」

(頬を染める貴方にまた捕らわれて)




 ―不完全ゆえに捕らわれる―

 
 
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