短編小説B
□獄誕!
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ピンポーン、と玄関のチャイムを鳴らす。
『ケンカしてるのなら余計、これ持って仲直りに行きなさい!』
奈々は、め!っという顔をして、有無を言わさずケーキを綱吉の腕の中に託した。
理由を言えない以上仕方がない。
(襲われたら…半殺ス)
綱吉は半ばヤケクソの境地で獄寺家のチャイムを鳴らす。
ガチャリ、と扉を開けて出てきたのはビアンキだった。
「あら、ツナじゃないの。いつものケーキ、届けてくれたのね。ありがとう」
不肖の弟の為に、と憎まれ口を叩いているが、本当は自分がケーキを焼いてやりたい程弟想いだ。
それをしないのは、奈々が、ビアンキにとっても、敬愛するもう一人の母的存在だからだろう。
(そう言えば母さんはビアンキの誕生日の時にもケーキを焼いてくれていた。もうずっと、昔から)
小さい頃の事を思い出す。が、ハッとする。
(駄目駄目!ほだされちゃ)
「せっかく来てくれたのに悪いわね。あの子、風邪引いて寝てるのよ。今年は誕生日、ケーキ無理かしらね」
「…え? 隼人、具合悪いの?」
知らなかった事に驚いた。隣に住んでいるのに、自分はそんなに隼人に会ってなかっただろうか。いや、たった数日、数日だ。
たった数日、いつも考えていたのにちょっと会わないだけで)
勝手に風邪になるなんて…!
唇をきゅっと噛む。
「…ごめんビアンキ、ちょっと上がらせてもらうね。そんで様子見てくるよ」
綱吉は靴を脱いでトタトタと上がり込む。
ビアンキはクスリと笑って優しく微笑む。
「ありがとうツナ。きっと貴方があの子の特効薬になるわ」
そう言って既に廊下を行く細い背中に聖母のように微笑んだ。