短編小説B 

□『きみホリック(中毒)』
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上がった声は後部座席からだった。一人で悠然と数人分の席に座り、長い脚を持て余すように組み直し。

ツナはひぃい…!と心の中で叫んだ。
(不良だ!不良だ!この人…!)

長い銀色の髪、胸元や指先を飾る、幾つものアクセサリー。
口元に煙草を燻らし、苛立たしげに形の整った眉を顰める。

(あ…、でも……)
着くずした制服は、どこか格好良かった。
端正な掘りの深い顔立ち。色が白い…。良くみると、瞳の色が綺麗な翠色だ。

(外人さん、なのかな?髪の色は、染めてるんじゃなくてそのせいなのかも―…)
魅入られたように、目が離せない。
じっと見ていたら、バチッと瞳が交錯した。

(ひっ!)
きつい瞳が、一層迫力を増しツナをギロリと睨む。
まるで、鋭利なナイフみたいだ。触れた途端に、斬りつけられて、痛みも無く血が流れ出すみたいな―…

「おい、アンタ」
ハスキーな、少し嗄れた独特の声が、広いバスの中に木霊する。

さっきの一括で、車内は静まり返っていた。それで分かる。この少年は、このクラスのボスなのだ。いや、もしかしたらこの学校全体のボスなのかもしれないが。

そんな人物に名指しされ、ツナはひぃっと身を竦ませる。

「オドオド、ビクビクしてんじゃねーよ。そうゆう態度が、こいつらをつけあがらせんだ。見てて、苛々するぜ」
チッとした舌打ちに、う…っと身を強ばらす。

『添乗員は、舐められたらお仕舞いだ』
社内の訓話を思い出す。
(そうだ…、オレが卑屈になってどうする)
グッと、マイクを持ち直すツナ。

「テメーらも!」
ガンッ!と再び蹴り飛ばす音。

「ガキが、いきがってんじゃねーよ!いいか? 俺は寝るからな。煩くして起こしてなんかみやがれ…、片っ端から果たしていってやる…!」
殺気を帯びた物言いに、シーン、と冷ややかに凍り付く車内。

ぎゃああ、と思いながらも、ツナはその後、失敗する事なくガイドをこなした。



 
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