短編小説B
□『発情期は超大変!』
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「おはよう、ツナたん。朝だよー…ツナたん?」
カーテンをサァッと開け、朝の挨拶をしながらケージの中を覗き込んだ京子は首を傾げた。
† † †
「ね? お兄ちゃん、ツナたん、様子が変でしょう?」
パジャマから制服に着替えた京子は、かがみこんだ姿勢から不安そうに兄を見上げる。
「落ち着きないし…鳴き声も何だか甘えてるみたいにクーン、クーン、って鳴くし…」
「ううむ」
兄、了平は指で鼻を擦る。
(熱いよ熱いよ、助けて…!)
「キュ〜ン、キュ〜ン、クンクン、キュウ…」
ツナたんはウロウロする。
(何だろう、何だか夜中から躰が変なんだ。妙に躰が熱いし、何だかお尻の辺がムズムズする…)
ケージから出されたツナたんは、自分の躰を持て余すようにウロウロすると、了平の側に行き尻をこすりつける。
(お兄さん、助けてよー!!何だかお兄さんが助けてくれる気がするよー)
「ク〜ン、ク〜ン」
ツナたんは訳も分からず助けを求めるように了平の周りをぐるぐるする。
そんなツナたんの様子を見ていた了平は、閃いた!というようにポンッと手を叩く。
「そうか、分かったぞ、京子! ツナたんは発情しているのだ!」
(ハツジョウ…? …Σええ!?オレが発情期!??)
ツナたんは驚いてガーンッと耳を立てる。
「発情?」
そっとツナたんを抱き上げた京子は、兄の言葉にキョトンと首を傾げた。
(………やっと気付いたのかよ)
隼人は別のケージの中で、呆れたようにゆったりと尻尾を振る。
ツナたんの様子が、微妙に変化し始めていた事には気付いていた。それはもう、飼い主よりも早く。
(アイツは、生まれてから初めての発情期なんだろう)
隣のケージで、夜中急に甘えるように鳴き始めたツナたんに、隼人はピクリと耳を立てた。
(誰か、誰か、なんとかしてっ)
「キュウン、キュウン、ワワワンワン…ッ」
訳も分からず救いを求めるようなに鳴き始める甘い声に、隼人の本能がムラムラと呼び起こされる。
(━…いいぜ、俺が何とかしてやる)
ゆらりと尾を振る。
「バウ」
(さあ)
早く俺を側にいかせろよ?
俺がお前を救ってやる。逃げられないよう追いつめて、満足するまでお前に奉仕してやるから。
ハアハア、と息を荒げる隼人。
隼人を怖がっているツナたんにケージを別にさせられた隼人は、ユラユラとしなやかな尾を振る。自分を見ようとしないツナたんに、彼には嗜虐的な感情も湧き上がってきていたのだ。
「キュウン、キュウンッ」
(どうしよう、どうしよう…オレが発情!?)
原因の分かったツナたんは、困ったようにウロウロ歩き回る。
(発情期って、こんななの?
自分でもどうしようもない…こんな、持て余すような感覚)
どうしよう。
プルプルと下半身をこすりたくなる。
(―…オレ…)
ああオレ━…ッ
泣きたくなってプルプルと震え、敢えて無視していた隼人の方を、潤んだ瞳でチラリと盗み見る。
そんな隼人とツナたんを余所に、困ったなあ、と京子は頬に手を当てた。
「困っちゃったな…実は、しばらく先輩の犬を預かる事になってるの。その先輩、部活の合宿でしばらくお家に帰れないとかで」
え!?、と隼人とツナたんは目を見開いた。