短編小説B 

□『発情期は超大変!』
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「じゃーん! そういう訳で、預かってきました。ヨークシャーテリアの雲雀くんです♪ツナたん、隼人くん、仲良くしてあげてね」
学校から帰ってきた京子は、嬉しそうに雲雀をキャリーから出した。

「雲雀くん、ここがしばらく君のお家だよ。お友達と仲良くしてね」
にっこりと微笑んで、柔らかい毛並みを撫でる。雲雀はうざそうにキャリーから出された部屋の様子を伺うように鼻をヒクヒクさせた。

(…ふぅん)
狭い部屋だね。こんな部屋で、犬三匹飼おうなんて、この女正気? まあ、一匹は小さいみたいだけど━…

チラリと一瞥する雲雀。

けど。

(……綺麗な子だね)
自分よりも小さい一匹は、不安そうにプルプル震えていた。

蜂蜜色に輝くふわふわした毛並み、見ていると落っこちそうな甘やかで煌めいて光る飴色の瞳。こんな綺麗な子、見た事ない。

(綺麗は綺麗なんだけど━…)

(『怖いよ怖いよ怖いよー…っっ』)
びくびく、プルプル、オドオド。

泣きそうなおっきな瞳に、ふん、と雲雀は鼻を鳴らす。
(弱虫に、興味はない)


「そうだ、お水持ってくるね。喉乾いたでしょう? ツナたんと隼人くんも待っててね。おやつ持ってくるから」

ツナたんと隼人がケージにいるので喧嘩にはならないだろうと踏んだ京子は、パタパタと台所に向かう。

そんな様子をツナたんと隼人は緊張した面持ちで伺っていた。

「…バウ」
『…なんだよ、ヒョロッこい奴だな』

「キャキャン、キャン」
『ははは隼人くん…! ダメだよ、失礼な事言っちゃあ!
こここ、こんにちは。オレ、ツナたんです。何か分からない事あったら、遠慮なく聞いてくださいね』
一応笹川家に於いて、先輩であるツナたんが声を掛け挨拶をする。
が、その声は震え、か細かった。

そんなツナたんに、雲雀は長い毛を揺らして近寄るが、つまらなそうに尾を垂れる。

『君……ロングコートチワワ? 見目は良いようだけど、随分と気弱そうだね』
雲雀は弱者に興味はなかった。弱者の向こうで、こちらを威嚇するように鼻に皺を寄せる大型犬には、もっと興味なかった。

『いっとくけど、僕は群れるのが嫌いだ。成り行きでこうなったけど、君達と仲良くするつもりはない。ましてや話なんて、するつもりもない』
吐き捨て、そっぽを向く。

雲雀のそっけない態度にツナたんはガーンッとなる。新参者の偉そうな態度に、隼人は苛立ちガシャン、とケージに体当たりした。
『てめぇ…!』

『はっ、隼人くん! 雲雀さん…!』

一触即発な空気に、ツナたんが間に入る。その時フワリと甘い濃密な香りが、二匹の鼻を擽った。
それは発情期のメスの匂い。

(何…っ)
クラリと眩暈を覚える雲雀。





 
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