短編小説B
□『もっとぎゅっとずっと』
1ページ/2ページ
「よお」
仏頂面で腕を組みながら、長い脚を持て余すようにドアにもたれかかる銀髪の少年。
玄関先で待ち伏せされて、綱吉はムゥッとなった。
◇ ◇ ◇
「なんで俺が来たかわかってんだろ?」
「何の事だかわからないね」
つーん、と隼人を無視してスタスタと廊下を歩く。
勝手知ったるなんとやらで綱吉の後を追いながら、顔を出した奈々に「ちわ」と挨拶をする隼人。
そんな小さな口争いをする二人に奈々は「あらまあ」と微笑ましい視線を向けた。
バンッ!
「━━ツナ!」
「何━…!? いっ…!」
ドサッ!
自室のドアを開けた途端、綱吉は隼人の腕に引っ張られ、そのままベッドへ倒れ込む。
押し倒され、掴まれた手首の力に、綱吉はギッと射るような視線を投げた。
「━…合意の上じゃなきゃ、こんなのレイプだ」
「合意、だろ?俺たち恋人同士なんだぜ?」
そう言いながら、キツい瞳に誘われるようにゆっくり耳の下の白い喉元に吸い付く。
ひぁ…!、と敏感に身体をしならせる綱吉。
「ここも…ここも…前に俺が痕を付けた所だ…昨日は俺が付け直す筈だったのに、何で来なかったんだよ」
その反応に気を昂ぶらせ、急速に大きな手のひらでしなやかな身体をまさぐり始める隼人。
昨日、『バレンタイン』。
その言葉に、綱吉はまたピキッと身体を固くし、射るような視線を向けた。
「〜〜〜〜っっ!!馬鹿ッ!」
ガッ、と隼人の鳩尾を膝で蹴る。
「な…!?」
突然の急襲に、隼人は防御もままならず息が詰まり呼吸困難に陥る。
「━…ゲホッ、ガホッ、何しやがるこの脚…!」
涙に咽びながら、それでもいい脚してんなあ、と心の中でうっとりしてしまう恋する少年獄寺隼人。
綱吉は怒りに真っ赤になって、床に転がった恋人を見据えた。
「〜〜ッ!オレが!行かない筈ないじゃん!朝から何度も渡そうとしたよ!」
渡す、『チョコレート』。
綱吉は感情のまま吐き出すように言葉を発した。
「けど…!その度女の子の邪魔が入って…、玄関前では待ち伏せされてるし、ポストは既にチョコでいっぱい…。学校に渡しに行けば、何故か男子に絡まれるし、それでも待ってれば女子に囲まれた隼人の姿…」
ゼーハー、と激昂したままの金色の瞳に、ジワリと涙が浮かんだ。
「綱━…」
隼人は膝蹴りされた痛みも忘れ、ぼうっと魅とれる。
この恋人は、泣き顔も可愛いらしい。