短編小説B 

□『キスから始まる進化論』
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(隼人のクラス…どこかなあ)
二年の各教室をチラチラと覗く綱吉。

他校の、しかも女装をしての潜入である。本来なら臆して然るべき所だが、早く帰りたい一心と手間をかけさせた隼人への憤りから綱吉は多少強気になっていた。

それに、少し冒険心もある。
(此処にはオレを知ってるヤツなんかいないしビア姉も絶対バレないって言ってた…不安だけど、オレの知らない隼人の学校生活なんて、何か面白くない?)
わくわくする。

時間は丁度休み時間だ。
ザワザワと騒がしい渡廊下。その大半の視線と噂話が自分に向けられている事など、綱吉は微塵も思っていない。

「おい、見ろよ。あの子可愛いくねぇ?」
「二年にあんな子いたかなあ。見た事ないし、一年か?」
「細っせー脚…///腰なんてこれしかないぜ」

ビアンキにいじられて、ふわふわした金茶の髪はピンで横に留められている。
小さな唇は薄いリップで艶々していたし、持ち前の甘さを含んだ大きな飴色の瞳は人目を惹くのに十分で。
(…可愛い―…)
男どもはポ〜ッとする。

更に誰も自分を知らないという状況が綱吉の姿勢を凛とした物に変えていた。

はっきり言って美少女だ。

そんな『彼女』が後ろ手に弁当らしき包みを抱えて教室を伺ってるものだから、誰か探してる事は一目瞭然で、相手は誰かと短時間で噂の的になっていた。

「――あの、すいません。このクラスに獄寺隼人って人いませんか?」
綱吉は思い切って扉の所ですれ違い様男子に声を掛ける。

ザワッと走る喧騒。

綱吉にしてみれば女子に話し掛けるより容易い事だったのだが、
「ごっ、獄寺…ッ!?」
声を掛けられた男子は最初真っ赤になって口籠もり、次に『獄寺』の名前を聞くとひぇえ!と青ざめて逃げ出してしまった。

「あ、ちょ…っ」
(何なの――!??)
唖然としていると、クラスの中から女子のチクチクした刺々しい声が聞こえてくる。

「あの子、獄寺に用だってー」
「これ見よがしに弁当持って、何様かしら」
「あの程度の容姿で男子に媚び売ろうなんて、生意気よねー」

(…うん、まあ…)

予想はしていたが何となくわかった。
やはり隼人は学校では怖がられてるみたいで、女の子にはかなりモテるらしい。

はぁあ、と溜め息を吐く。
そして次に湧いたのはムカムカした怒り。

(誰がっ!媚びてるって!?)
ガンッと壁を叩く。

(もう、弁当持って帰っちゃおうか。どうせ隼人食べないし)
そう思案しているとトントンと肩をつつかれた。
くるりと振り向くと、上級生らしき男子が数人ニヤニヤして立っている。

「君、獄寺探してんの? 俺たち知ってるから、連れてってやるよ」

















「…ん?」
獄寺は自販機のコーヒーを飲みながら腕を付き窓から何気なく中庭越しに反対側の校舎を見ていた。



「何かあっちの棟、騒がしくねーか?」
「美少女が人を探してるって噂だぜ」
「言ってみるか」
うざい同級生の話が耳に入ってくる。

(美少女ねぇ…あれか?)
目を凝らす。
窓越しに茶色くふわふわした髪、華奢な身体つき。

(へぇ…、世の中には似たヤツが三人いるってゆーけど、うちのガッコにあんなヤツいたっけか…、ん?って、
Σはぁぁぁあ!??)
ブハッ、とコーヒーを吹き出す。

「がはっ、ゲホッ!! な、何でアイツが!」
(綱吉―――!??)
バンッ、と窓に張り付く。

「ご…獄寺?どうした」
「獄寺くん…?」
周囲に居た同級生たちはその奇天烈な行動に一歩引く。

良くみると綱吉は三年の男子に絡まれている。
腕を引っ張られて、肩に手を回されて。

「――…ッんにゃろ!!」
獄寺はバッと身を翻すとガコッと缶を捨て慌てて後を追った。

 
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