短編小説B 

□『迷える羊の恋愛事情』
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『え!?どっ、どうして!??これ何かの試験なんですか!?』
オレはパニックになって質問する。

直ぐ様“試験”の二文字が頭をよぎったのには理由がある。

昨日丁度獄寺が初代嵐の守護者の認定試験を受けたのだが、その試験の内容が、獄寺に化けた初代嵐の守護者が、ツナと獄寺、二人の絆を試すというものだったのだ。

(あの時の獄寺くんはいつもと違って凄く大人びて見えた…ちょっとドキドキした…Σじゃなくてっっ)

声は音として聞こえなくても、ボンゴレ特有の超直感が二人の間の会話を成立させる。

ボンゴレ初代ボスはツナの思考に口元を緩ませながらも、顎に指を当て軽く思案するとふるふると首を振った。

「いや、これはオレにとっても不測の事態だ。試験とは関係ない」

『え? じゃ、何で…』
困惑するツナ。

「恐らくだが…、俺とデーチモの波動は良く似ている。
デーチモの意識がそれと気付かぬまま肉体を離れた時…例えば就寝中だな、近くにいた俺の意識が、デーチモの意識の代わりに身体に入り込んだんだろう」
恐々聞いたツナに、プリーモは冷静に告げる。

けどそれはツナの理解の範疇を完全に超えていた。

『???、って事はオレ戻れないんですか―!??』
ガーン、となる。
こういう時に限ってリボーンはいない。
多分また了平の家庭教師と称し笹川家にお邪魔しているのだ。

(どどど、どうしよう―――!!)
パニックになっているオレに、クスクスと柔らかく笑む声がする。

「…心配しないでいい。この体は元々デーチモのものだ。いくら波長が似てようと、所詮俺は借り物の意識。ちょっとしたきっかけで直ぐに元に戻るだろう。
…それにしても」
チラリと流し目でツナを見る。

「…寝ている間に幽体離脱とは。心は何処へ行っていたのかな…?」

『…え?』
ツナはボンっと紅くなる。
(昨日、は…確か、獄寺くんの夢を見てた。オレが『獄寺くんの夢を見たい』って思ってたから、そういう夢を見たのかと思ってたけど…もしかして、本当に獄寺くんの所に行ってたのかも)
どぎまぎする。

するとそんなツナを見てプリーモは無言でにっこりと微笑んだ。

(…かっこいいなあ―…)
安心させるような穏やかな声音。それが『自分』から発せられていると思うと、違和感ありまくりなのだが。

(…この人は、嘘をつかない)
『そ…うですね。こんな時こそオレ、落ち着かないと。継承試験もまだなんだし』
心配しないように、との心配りを察し、ツナも安堵の息を吐く。
そして改めてまじまじと『自分』を見た。

(…中身が違うとこんなに印象って変わるんだなあ。見た目はオレのままなのに、妙に迫力を感じる)

プリーモはじっと自分を見つめるツナに愛しさを覚える。

(俺の子孫か…こうして直に対面し干渉するとは思わなかった。
有り得ない奇跡だが、過去の俺たちの過ぎ去った『夢』が、こうして未来に受け継がれている事を…まさか自分のこの眼で確かめる日がやってこようとは)
感慨深い想いが胸に込み上げてくる。

それにしても…

(愛らしい子だ)
目を細める。

さっきから自分を見つめる煌々した瞳、あどけない表情、仕草―…

(幼いが、妙に人を惹き付ける)
自分の血筋だと思うと愛しさが倍増する。
度を超え、守りたいとすら思わせる。

(だがそれは、きっと今の嵐の守護者が命懸けでやってくれるんだろう…
俺と、Gのように)
過去の自分たちに思いを馳せる。
と、ツナの現実的な声がプリーモの意識を呼び戻した。

『あああの!すいません、プリーモさん。もう学校行く支度しないと…遅刻するし、今日はテストがあるから休めないし、それに━…』
(早くしないと獄寺くんが来ちゃうんです…!)

急かすような声にプリーモは「そうか」と身支度を始めようとする。

その時階段を軽快に上がる足音が響き、ツナはひぃ!と声を上げた。

 
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