頂物

□君がいる未来予想図
1ページ/1ページ

肌寒い空気を感じながら、一人見知らぬ土地の見知らぬ場所に座っていた。綺麗な着物を纏った女の人や、外国人がカメラ片手に楽しそうに通りを歩く姿を見て、半開きの口から盛大に息が漏れた。せっかくの修学旅行なのに、俺はどこまでダメツナなんだ。

土産物屋の並ぶ人通りの多い道で、目に入った玩具の刀に気を取られたほんの数秒だった。一緒に行動していたはずの山本と獄寺くんを一瞬で見失った。

自分の人任せな性格が心底嫌になった。班で1枚の地図も俺には読めないから山本に渡してあったし、旅行の計画も獄寺くんが立ててくれてたから、俺は何も知らない。目の前に見える有名な建造物の名前すら、俺の残念な頭は覚えてなかった。よって、自分に出来ることと言えばこの場から動かないでいるだけ。

何度目か分からないため息に視界が潤む。見知らぬ地に一人というのがこんなに心細いとは思わなかった。地元とは違う冷たい風に、身震いして膝を抱いた。
ふと地面しか見えていなかった視界に、使い古したシューズが入った。荒い呼吸の聞こえてくる頭上に視線を向けると、見慣れた黒髪が揺れていた。

「山本…!」
「ツナ…良かった、」

ちょっと待って、と途切れ途切れに口にしながら俺の隣に腰を下ろす。こんなになるまで探し回ってくれたのかと思うと、感謝より申し訳なさでいっぱいになった。

「山本、ごめんね…」
「ったく、心配したんだぜ?」
「…ごめん」

息が整ってきた山本に何度も謝ると、笑顔で髪をぐしゃぐしゃやられて少し安心した。

「な、このまま二人でまわんねえ?」
「え、でも獄寺くんは?」
「だって今度はアイツが迷子じゃん?捜すついでに、な?」
「う、うん」
「よし!行こうぜ」

なんだか上手く乗せられた気がしないでもないが、山本の言うことは全部正しい気がしてくる。これもある種の才能なのかもしれない。

「今度ははぐれないように手繋ごうぜ」
「え…ええええでもっ」
「大丈夫、ここじゃ誰も見てねえって」

手を繋ぐ、というより、無理やり手を引かれる形になったが、少し頬を染めて満足そうに笑う横顔に、たまにはいいかななんて。ほんと流されやすい性格だとは思ったが、悪い気分ではなかった。


しばらく観光名所と呼ばれる場所を歩き回ったが、獄寺くんには会えないまま夕日が差してきた。流石に集合時間までに合流出来ないとマズいということになり、なるべく人目に付く目立つ場所で待機することにした。
疲れた足を休めながらただぼーっと行き交う観光客を眺める。夕日に照らされる京の街を見てたら、無性に感傷的になってきた。

「修学旅行が終わったらもうすぐ卒業だよなあ…」

思わず口から出た言葉に恥ずかしくなった。卒業まで数ヶ月あるし、それどころか修学旅行はまだ1日目だ。感傷に浸るにも早すぎる。隣に座る山本を横目で見ると、いつになく真剣な表情で、俺だけじゃないんだとほっとした。

「なあツナ」
「ん?」
「お前…高校どこ行くの?」
「んーまだ、はっきりとは…」
「そっかー」
「山本は野球で推薦だよね?」
「あー…いや…」

珍しく言葉を詰まらせる山本に、なんだか不安になる。再度隣に目をやるが、さっきと変わらない表情で通行人を見ていた。

「ツナ、俺さ、」
「うん」
「お前と同じ高校受けようと思って」
「うん、……え!?」
「俺、ツナと同じとこ行きたいのな」

真剣な瞳が俺に向いて、心臓がどきどきした。からかうなよって笑おうかとも思ったが、そんな空気ではなかった。

「だって、野球は?」
「野球なんてどこでだって出来んじゃん?でも、ツナはここにしかいない」
「……」
「俺、今みたいに毎日ツナに会えなくなるとか考えらんねえの」

何も言えなかった。もちろん俺だって山本と離れるのは嫌だし、こんな風に想ってくれてたことは凄く嬉しい。でも、これは山本の問題だ。安易に決めて良いことじゃない。俺たちは自分で思ってる以上に子供なんだと感じた。

そんな気持ちを察したのか、山本はいつもの人懐っこい笑顔に戻って俺の頭をぽんぽんと叩いた。

「心配すんなよ。俺だってすっげえ考えて決めたんだぜ?」
「…うん」
「だから、次の修学旅行も俺と一緒な」

そう言いながら額にキスされた。驚いて周りを見回したが誰も気にとめる様子もなく、一息ついて山本を睨んだ。悪びれる様子もなく口だけの謝罪をされて、何故か面白くなって二人顔を合わせて笑った。


結局その後、集合時間の30分遅れで獄寺くんと合流した。俺を見失って一人にさせたということに泣きながら土下座する獄寺くんを、山本と二人で引き摺って集合場所に向かった頃には、もう日はどっぷり暮れていた。当然ながら先生に延々2時間は説教され、さらに夜の楽しい枕投げの時間は反省文に潰れた。

これはこれでいい思い出だなと思えるのも、これが最後じゃないと分かったからかもしれない。とりあえずは明日ははぐれまいと誓って、俺を挟む二人におやすみを言った。
















 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ