短編小説
□可愛いオトコノコ
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何かの間違いじゃないのかと、確認しようと思ったその瞬間。
「…っ、俺の完敗だ。桐上、弟との交際は認めよう…。俺の代わりに、全身全霊で葉月を守ってやってくれ!」
ちょ、え、えええぇぇ!?
大声で交際容認発言をしたお兄ちゃんは、目にうっすらと涙を浮かべながら、どこかに走り去ってしまった。
……この状況、どうしたらいいの?
「……お兄さんはああ言ってるけど、どうしようか」
残されて呆然としていた僕に、桐上先輩は比較的のんびりした口調で話し掛けてきた。
ちょっと困ったような顔で、交際を認められた喜びは、微塵も感じられない。
やっぱり、僕を好きなようには見えないよね。
「ここじゃ落ち着いてお話もできないので、移動しませんか」
お兄ちゃんの初の敗北で、僕がどうなるのか。
たくさんの野次馬が、僕と桐上先輩の動向を見守っている。
こんな状況で、お話とか無理。
桐上先輩も同意見だったのか、僕が促すままひと気のない場所を探して移動する事になった。
「先輩は、どうして決闘を申し込んだんですか?」
ガランとした飽き教室で、向かい合ってそう訊ねる。
ホントだと危険なシチュエーションなんだけど、桐上先輩には危機感を覚えない。
だからたぶん、大丈夫。
そして僕の予想は、アッサリと的中した。
「頼まれたから、かな?」
ホラ、やっぱり。
僕を好きってワケじゃなかったんだ。
「頼まれたって…、誰にですか?」
「君のお兄さんに決闘で負けた連中だよ。なんとか連合ってのがあって、とにかく誰かに負けるお兄さんを見たいからって理由で」
なんてくだらない理由。
「……それで先輩は了承したんですか」
かなり不機嫌さがにじむ、低い声になった。
声変わりもまだだから、低いって言っても知れてるんだけど。
「くだらないなーとは思ったんだけどね。お兄さんの無敗伝説は有名で、手合わせしてみたかったし」
「…手合わせしたかった…んですか?」
意外な回答に、思わずキョトンとしてしまった。
「そう。武道家として気になる相手だから。君絡みじゃないと決闘しない噂は有名だし、手合わせするならこの方法しかないと思って」
「……そう、ですか」
目的はお兄ちゃんで、僕じゃなかったワケですね。
あれ? なんかモヤモヤする。