腐った男子です。
□暗雲、球技大会
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「とりあえず戻ろう。市川達も心配してたから」
「はい…」
並んで歩きながらも、会話は弾みません。
気まずい空気を打破できないでいると、寮長が重い沈黙を破り、僕に訊ねました。
「どうして1人で行動したりした?」
責めるような含みは感じられず、本当にただの質問といった感じです。
「五十嵐先輩を見掛けたので」
だからするりと、素直に答えていました。
「……冬弥を、追い掛けたのか?」
険しい顔で振り返る寮長を見て、自分が失言した事に気付きます。
そう言えば寮長は、五十嵐先輩には関わらないようにと言っていました。
「あの、これをお返ししたくて、それで……」
手にしていた紙袋は、いつの間にかクシャクシャになっていました。
いろいろあったせいで、強く握り締めていたようです。
一瞬、僕の気が逸れた次の瞬間。
「えっ!?」
駒沢寮長の大きな手が、僕の両手を紙袋ごと握っていました。
そして真剣な顔で、ゆっくりと話し始めます。
「中谷のそういう真面目なところは、長所だと思う。けど、それが必ずしもいい結果に繋がるわけじゃないって、覚えていてほしい」
「寮長……」
「どうしても冬弥に直接会って返したいなら、もう無理に止めたりはしない。けどその時は、必ず俺と一緒に行くと約束してくれないか」
握られた手の力がいっそう強くなり、手の力以上に力の入った視線で真正面からそう言われ、僕が『否』と言えるはずもありません。
雰囲気に飲まれたように声が出なくなっていて、何とか頷く事で返事をしました。
僕が頷いた事を確認した寮長は、ようやく肩から力を抜いて、僕の手をゆっくり離します。
「キツい言い方をしてごめんな。でも本当に心配なんだ」
俺のせいで危ない目に遭わせた事もあるんだし。
そう付け足され、僕は慌ててしまいました。
「そんなに責任を感じないで下さい! あれは本当に、僕の自業自得なんです」
「でも……」
「その話は前にもしましたよね? 僕は気にしてほしくなんてありません」
「それは、ちょっと難しいよ……。可愛い後輩の事だから、心配になるのも当たり前だし」
ほわわん。
文字にするとそんな感じでしょうか。
寮長の言葉を聞いて、ついつい喜んでしまいました。
駒沢寮長は、僕の心のお兄ちゃんとなりつつあります。