腐った男子です。

□暗雲、球技大会
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「……ありがとうございます」

嬉しい気持ちを抑えられないまま、少し照れつつお礼の言葉を伝えました。

「……いや」

僕の表情に少し驚いた顔をした寮長でしたが、次の瞬間には満面の笑顔を見せて下さいます。
お互いに見つめ合ってニコニコする様子は、周りから見れば異様だったかもしれません。

それに気付いて我に返った僕は、気恥ずかしさを誤魔化すように寮長の手を引きました。

「陽一さん達が待って下さっていると思うので、そろそろ戻りましょう」

「あ、ああ。そうだな」

そのまま歩き出そうとした、その瞬間でした。

「……、中谷…っ、」

「えっ?」

いきなり顔色を変えた寮長が、手を繋いだままだった僕の手を、力いっぱい引き寄せます。
わけもわからないまま、僕の身体は再び寮長の腕の中に納まってしまいました。

「寮ちょ、」

どうしたのですか。

そう訊ねる前に、ガラスが割れるような音と、衝撃が訪れました。

「…っ!?」

いきなりの事に、とっさに目を瞑ってしまいます。
ピリッとした刺激が左手の甲に走り、ますますわけがわかりません。

「中谷、中谷!」

「え? あっ」

身体が離され視界に入った足元には、大量の割れたガラスがありました。
僕達から1番近い校舎の窓が、無残に割れている事にも気付きました。

「あ……」

状況からして、あの窓が割れて僕達の上に……、あっ!

「寮長!」

自らの身体を盾にして僕を庇ってくれたんですよね…!?
怪我はしていないでしょうか…!?

寮長の安否を確認しようとした僕よりも先に、寮長は僕の手を取って顔をしかめました。

「血が出てるじゃないか!」

そ、それはそうなんですけど。
でもそれどころじゃありません。

「りょ、寮長も怪我をしています!」

僕を心配そうに見る寮長の額から、真っ赤な血が流れ落ちていました。
僕なんかより、よっぽど大変な怪我です。

「ほほほ保健室にっ!」

「落ち着いて。大丈夫だから」

頭の傷は小さくてもたくさん血が出るんだ。
そう言われても、安心なんてできません。



こんな事が起こるなんて、全く想像もしていなかった球技大会。
暗い雲に覆われるような不安を感じつつ、怪我の手当てを受けながら閉会の時を迎える事になりました。




 暗雲、球技大会 end

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