腐った男子です。

□暗雲、球技大会
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「はぁ…、はぁ…、やっぱり、いません……」

全力疾走をしたとはいえ、僕の足は遅いです。
ようやく五十嵐先輩を見掛けた場所に着きましたが、既にその姿はありませんでした。

望みが薄かったのはわかっていても、残念でなりません。

「……もしかしたら……」

渡り廊下の先にまっすぐ視線をやると、そこは特別棟です。
五十嵐先輩と初めて会ったその場所に、行ったのでしょうか?

そうは思うものの、一歩が踏み出せません。
僕に刻み込まれた恐怖の記憶が、身体の自由を奪っているかのようです。

「………でも、今日なら」

不良さんも球技大会に参加していて、いないのでは?

僅かな希望を抱いて、足を動かそうとした時でした。

「おい!」

「ひゃ…っ!?」

いきなり腕を捕まれ、心臓が飛び出そうなほど驚いてしまいます。
思わず声を上げ、腕を振り払おうとしながら相手を見れば、別の意味で驚愕しました。


「か、会長……?」


まさか、まさか。
まさかの遭遇です。

何故こんな場所に生徒会長が。
そして何故、僕は声を掛けられたのでしょうか。

「あ? お前は確か、戸波弟の……」

「は、はい。あの、同室の者です」

「そうだったな。それよりお前、どういうつもりだ」

「えっ?」

どういうつもりとは、どういう意味ですか?

「この先の特別棟が危ない場所だって、知っててここに来たのか?」

「え? あ、は、はい。あのでも、中に入るつもりは……」

「は? 俺が止めてなきゃ入りそうだったじゃねえか。俺の見間違いだとでも?」

確かにその通りです。
僕はフラフラと、特別棟に足を進めかけていました。

「素行の悪い奴ってのは、総じて校内行事をフケてやがる。つまり今日の特別棟は、いつも以上に危険なんだよ」

軽率な行動を取った自分に気付き、責められても反論しようがありませんでした。

「……すみません。僕が浅慮でした」

深々と頭を下げて謝れば、会長は『わかればいい。2度とするな』とだけ言って、しかめていた表情を和らげました。

あぁ、そう言えば……。

「あの、つかぬ事をお伺いしますが、会長は何故ここに……?」

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