腐った男子です。
□見学、親衛隊
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「とりあえず生徒会側で出来る対策はしておこう。校内の見回り強化を巡回部に頼んでおくから」
耳慣れない単語を聞いて、ある疑問が浮かびました。
そう言えば最初から不思議に思うべき事だったのに、緊張と驚きが先に立って、気付かずにいたようです。
「あの、巡回部って何でしょう? 風紀委員ではないんですか?」
中学の風紀委員しか知らない僕は、実際の高校での風紀委員がどんな仕事をするのか知りません。
あくまで漫画や小説のイメージでしかないのですが、通常こういった事情聴取や見回りは、風紀委員がするものだと思っていたのですが。
僕の疑問に、副会長が苦笑しました。
「我が校に風紀委員はないんだよ。正確にはあったけど、解体したと言ったほうがいいかな」
え?
「解体…、ですか?」
「そう。去年、光輝が生徒会長になった時にね」
「何でまたそんな……」
思ってもみなかった返答に、陽一さんも怪訝な顔をしていました。
監視カメラがつけられているような学校で、風紀委員がないのは不自然だと思えます。
質問に答えたのは、どこか不機嫌そうな表情を浮かべた会長でした。
「簡単に言えば、役立たずだったからだ。役に立たないどころの話じゃなかったが、詳しくは教えられねえ。とにかくいらない組織だったから解体して、風紀に当てられていた仕事は生徒会で引き受けてる。俺達の管轄下にあれば、活動内容も権限もコントロールできるからな」
緩んだと思っていた空気が、再び緊張したものになっています。
この話題はタブーなのだと、感じるには充分でした。
「この話はもういいだろ。用事も済んだし、サッサと引き上げるぞ」
そう言って会長が立ち上がり、副会長も続いて腰を上げます。
「あ…」
もう帰るのですか。
由比くんも、僕と同じように思ったみたいです。
思わず1歩踏み出しかけて、けれど気まずそうに顔を俯けてしまいました。
せっかくお兄さんと話せるチャンスだったのに、実際にはほとんど視線も合わせられていないのです。
由比くんが引き止めたくなる気持ちもわかります。
「……良平くんには話していたんだけど、その内ゆっくりお邪魔しに来るよ。今日は仕事だし、長居はできないから」
思っていたよりも優しい声色でそう言った副会長は、由比くんが踏み出せなかった距離を自ら詰めて、ぎこちない手付きで由比くんの髪をそっと撫でていました。
「コーヒー、ご馳走さま。…ありがとう」
その言葉に、由比くんは弾かれたように顔を上げます。
信じられないような気持ちと、隠しきれない嬉しい気持ち。
そのふたつが上気させた頬はうっすらと赤く、ただでさえ可愛い顔がよりいっそう可憐に見えました。
か、可愛いです……っ!