腐った男子です。

□再会、社会科室
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「あ、勝手に冷凍庫も見させて頂きました。氷をお入れしますか?」

すぐ隣に立つ寮長からフワリと石鹸の匂いがして、少しドギマギしてしまいます。
さっきから僕、まるで不審者のようですね。

きっとこの間の親衛隊お茶会の影響です。
あの時、彼氏持ちの先輩がノロけていた一言、

『彼のたくましい胸板にギュッとされるとトキめく』

という発言が、頭から離れないせいです。
だって僕、何気に寮長にギュッとされた事ありますから。

だから変に意識してしまうんです。
……たぶん。


「いや、緑茶は熱いのが好きだからいいよ。冷いのなら部活終わってすぐに飲んだし」

「わかりました。………あのぉ」

言っていいものかどうか、とても迷ったのですが。

「ん?」

「………服、着ませんか?」

とても直視できないので、言ってしまいました。

「あぁ、悪い。見苦しかったな」

「いえ、そんなわけじゃ…」

とても均整の取れた、素晴らしいお身体だと思います。
鑑賞に値する、そんなお身体です。


ただ、とても目に毒な気が致しまして。


ーーーなんて、そのままを言えるわけもなく、曖昧に微笑んでしまいました。
だって正直に言ってしまったら、僕は不審者を通り越して変質者です……。




さて、そんなわけで。
シンプルなTシャツを身に付けて下さった寮長と向かい合って座り、ひとまず緑茶を啜ります。

どうにか落ち着けました。僕が。

「それで話って?」

早速本題を尋ねられ、躊躇してしまいそうになりました。
けれど言わなければなりません。

「寮長のお時間がある時で構わないのですが、特別棟へ行くのに付き添って頂けませんか……?」

図々しくも、護衛して下さるという言葉を頼り、お願いしに来たのですから。

「特別棟……?」

普段は穏やかな寮長が、ハッキリとわかるほどに顔をしかめました。

うぅ、やはり迷惑でしたでしょうか……。

「す、すみません…っ、あの、返さなくていいと言われているのですが、やはりどうしても気になってしまって……」

特別棟で襲われた時、五十嵐先輩からお借りしたTシャツ。
何気なく目に止まったロゴを調べてみたら、とても有名なブランドの物だと判明しました。

この学院の生徒は裕福な家庭の方が多く、五十嵐先輩もそうなのだとして。
先輩にとって、そこまで価値のある物ではないのかもしれません。

でも僕は腰を抜かしそうになりました。
だってそのブランドは、Tシャツ1枚で単行本が何十冊買えるのかという……、そうではなくて。

借りた物はちゃんとお返ししたい。
ちゃんとお礼を言って、ずっとモヤモヤしている気持ちもスッキリさせたい。

そんな気持ちが、どうしても消えなかったのです。


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