腐った男子です。

□再会、社会科室
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そして時間は流れ、翌日の放課後となりました。
今日はずっとソワソワしてしまい、陽一さんと由比くんに不審がられたのは余談です。

内緒にするつもりもなかったので、お2人には今日の事をきちんと伝えてあります。
寮長に付き添って頂ける事も言ったので、安心して下さったようでした。

「それじゃあ行こうか」

「はい!」

1人だと絶対に足がすくんでしまう特別棟の入口を、しっかりした足取りの寮長と並んでくぐります。
まだ日の高い時間だというのに、どこかほの暗く感じるのは、ぬぐい切れない不安のせいかもしれません。

小さな物音にも過敏に反応してしまい、小さく身体を跳ねさせていると、ふいに暖かな温もりに右手を包まれました。

「…っ!」

寮長の手が、ぼくの手を包んでいます。
視線を寮長の顔へと向ければ、そこにはとても優しげな眼差しの寮長が。


………お兄ちゃん…。


って、そうではなくてですね!

何だかこの展開に慣れつつあるのも、どうなのでしょう。
とても心強い事は確かなのですが、腐男子としてはやや微妙な気持ちになるのです。

ええ、つまり、どなたか可愛い方と手を繋いでいるところを、第三者として見たかったという……。

せっかくの萌えシチュエーションなのに、自分が絡んでいては萌えられない。
そんな状況ばかりで、満足ですとはとても言えないのです。

けれど最近、萌えの対象である方々と接している内、少しずつ変わってきた事がありまして。
仕方ない事なのですが、その対象を知れば知るほど、萌えてしまうのは申し訳ない気がしてくるのですよね。

漫画のキャラクターやアイドルとは違い、彼らは身近な場所で生きています。
たとえ妄想でも、自分の都合であれこれ考えるのは、失礼なのではないか。

そんな罪悪感めいた気持ちを抱いてしまうのです。

「ここだよ」

手を引かれたまま、あっという間に辿り着いたのは、社会科室でした。
3つある内の、2つ目。
ちょうど真ん中に位置する部屋です。

か、考え事をしている間に、サラッと着いてしまいました。
と言うか、ほんとに連れて来て頂いただけの僕って、どうなんでしょう……。

やや自己嫌悪に陥りつつある僕をよそ目に、寮長は引き戸の取っ手に手を掛けます。
ノックとか、しなくてよいのでしょうか。

カラリと軽い音を立て開いた扉の向こうには、整然と並んだ机と椅子。
どうという事もない、至って普通の教室です。
使用頻度が低いせいなのか、無人の教室は、どこか寂し気に感じました。

そう。無人、なのです。

「誰もいませんね……」


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