腐った男子です。
□事件、2035室
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「ん、んんーっ!」
現実逃避をして固まっていた間に、事態は悪化の一途を辿ってしまいました。
ええと。ようするにですね。
か、かかか、会長のし、舌が、ですね。
「んっ、ん、んんっ、ん、ぷぁ、っ、ん!」
ああぁ、ちょっと待って下さい!
口の中をそんな風に舐めないで…っ!
あ、ダメです、舌を絡めちゃ、あっ、ちょ、うそ、きもち、い…っ!
「んぁ、やぁ…っ、ん!」
ディープキスって、こんなに気持ちいいものなのですか?
それとも会長がテクニシャンなのですか?
後者だとは思うのですが、おかげで解放された僕の唇からは、甘い吐息混じりの変な声が出てしまいました。
う、埋まってしまいたいです……。
羞恥で頬が赤くなり、涙目になっている顔を見られたくなくて、顔を背けます。
けれどそれは許されず、会長の手によって正面へと戻されてしまいました。
その拍子にポロリと零れた涙を、男らしい節くれだった指がそっと拭っていきます。
「このくらいでそんな顔すんなよ? ……ククッ、真っ赤になって、免疫ないんだな。予想してたより、かわ…、」
カシャッ
「あ?」
「え? あ」
音がした方向へ目をやれば、そこにはスマホを構えた陽一さんがいました。
「悪い。とっさの出来事で、マナーカメラにし忘れてたわ」
マナーカメラって、写真を撮る時にシャッター音が鳴らないカメラアプリですよね?
それにし忘れたから音が出たという事は、さっきの『カシャッ』は……、
ーーま、まさかぁぁぁぁぁ!?
「ごめん。撮っちゃった」
そ、そんな『てへぺろ☆』みたいな顔をされましても!
撮っちゃったって、それ、今のこの状況をですよねぇぇぇ!?
「テメェ…、それどうするつもりだ」
僕がただワタワタしていると、さっきまでとはガラリと雰囲気を変えた、会長の低い声が聞こえてきました。
…………怒って、ます……?
あまりの迫力に怯える僕を他所に、陽一さんは平然とした顔でこう返しました。
「萌えます」
「………は?」
会長の反応は、至極真っ当に当然に、呆気に取られたものでした。
それはそうでしょう。
だって、同じ腐男子である僕でさえ、唖然としてしまいましたよ……?
「良平の持ってる漫画も見られちゃったみたいなんでバラしますけど、俺と良平は腐男子なんですよ。ゲイじゃないけど、男同士の恋愛モノに萌えを感じるんです」
「も、萌え……?」
人生ゲームも知らなかった会長に、萌えは通じないと思います……。