短編小説
□気の迷いなんて言わないで
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3周年記念リクエスト小話
まいまい様リクエスト
【カプ】カナデ×葵
【お題】葵の嫉妬
素直な気持ちを教えてよ
俺といる時は携帯の電源を切る。
カナデのそんな行動に気付いたのは、付き合い始めてからかなり経った頃だった。
読書中の俺を邪魔したくないとか、俺以外はどうでもいいとか、馬鹿な事ばかり言われて、そんな必要ないって怒った記憶がある。
「だから今はダメなんだってー。……ん? そだよ、外。帰ったら連絡するから切るよ?」
そう言って電話を切ったカナデを見るのは、これで何回目だろうか。
「何回もゴメンね、葵ちゃん」
謝りながらも笑顔なカナデを一瞥し、開いた文庫本に視線を戻す。
今日は3回目だったな。
友達が多くて結構な事だ。
内心ではそう皮肉を浮かべつつも、
「………別に」
決して口には出さないようにする。
「相変わらず冷たいんだからー」
苦笑を浮かべたカナデは、俺の内心になんて気付かないまま、今度はメールを打ち出した。
「来週ダチの1人が誕生日でさ。皆でサプライズしようとか言って、やたら連絡回ってくんのよ」
「……説明なんて求めてない」
「そう言わずに聞いてよ。幹事になってんのがリッコって子なんだけどさー」
ダチって女だったのか。
「あれ、今ムッとした?」
「してない」
「えー、したって」
「してない」
「ウソウソ。女子の名前が出て妬いちゃったりしたんじゃない?」
ニヤニヤと嬉しそうに言われ、頭の中の何かが音を立ててブチ切れた。
「うるさいな、そんなんじゃないって言ってるだろ! 着信で集中力が切れて少し苛ついただけだ!」
「あー、じゃあやっぱ電源切るようにしとこっか?」
「しなくていい! 今のタイミングでそんな事させたら、それこそ嫉妬したって認めるようなもんだろ!」
「……葵ちゃん」
驚いた顔で名前を呼ばれ、愕然とした。
「いや、今のは違っ…」
「もう遅いって。嫉妬してくれたんでしょ?」
くそっ、そんな嬉しそうな顔をするなよ。
強く否定できなくなるだろ。
「ね、お願い。葵ちゃんの素直な気持ち、教えて?」
甘えるような口調で囁きながら、俺の身体を抱き寄せる。
実に手慣れた所作は、カナデの経験値の現れだ。
そんな小さな事ですら、面白くないのが本音。
「………お前の交遊関係が広い事くらい、わかってるけど。それでも時々、他の奴と楽しそうに話してるカナデを見ると、ムカつく」
「うん。そっか」
ちくしょう、嬉しそうにしやがって。
「あと作戦なんだろうけど」
「ん?」
「俺と一緒にいる時、電話に出ても、いつも『外だから』って言うだろ。あれも何か、イラッとする」
『恋人』と一緒にいるって言わない事に、不満を抱く日が来るとは思ってなかったけど。
「あー、それは作戦って言うか、仕返し?」
「は? 何のだよ」
「だって葵ちゃんってば、オレが葵ちゃんとの時間を大切にしたいって言ってんのに、却下したじゃん。けっこう悲しかったんだよ?」
携帯の電源云々の事を言われたのだと気付き、目から鱗が落ちるような衝撃だった。
俺としては、俺ばかりを優先させて、カナデを束縛したくなかっただけだ。
けれどカナデは、自分の都合でそうしたかっただけなんだな。
「わかった。反省する」
素直にそう言えば、カナデが笑う。
屈託のない笑顔は、眩しいくらいに魅力的だった。
何もかも相手の希望を叶えるなんてできないけれど、歩み寄る努力をしようと思った。
そうやって、長い時間を一緒に過ごしたいと思えるくらい、カナデの事が好きだから。
end
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