一面に広がる銀世界。どうやら昨夜はずっと降り続けたのだろう。だいぶ積もっている。雪たちは、太陽に照らされきらきらと輝きを放ち、眩しさに思わず目を瞑る。
「おいっ、総司」
試衛館の門の前に積もる雪をせっせと掻く土方は、大声で総司を呼ぶ。近くで子供たちと戯れる総司は呼び声に気付くと、子供たちと遊ぶのをやめ土方の近くに駆け寄る。
「なんですか」
「なんですかじゃねぇだろ。お前もやれ」
土方は睨みながら言うと、総司は「えー」などと不服の声をあげる。
「それより、みんなで雪合戦やってる方が楽しいですよ」
笑顔でそう言うと、また子供たちのところへ走り出そうとしたが、土方はすかさず総司の肩を掴む。
「土方さ〜ん。ちょっとぐらい、いいじゃないですかぁ」
甘えた声を出したところで土方の意思が緩むことはなく、『かっちゃんの命令だ』の一点張りだった。仕方なく雪掻きを始めた総司だったが、大声で文句を垂れながらのろのろと手を動かし明らかにやる気無しといった態度をとった。そうやって総司は、『やりたくない、遊びたい』という事を遠回しに土方に訴えているのだろう。
そんな総司を無視して、もくもくと土方は雪掻きを続けた。
空を見上げると、さんさんと輝く太陽。この天気なら、少しは雪も溶けてくれるだろうか。目を細め、土方はそんな甘い期待をした。
「あれ?」
先ほどまで煩いほど聞こえていた総司の声は知らぬうちに止んで、本人の姿も見当たらない。どこ行ったんだと土方は辺りを見回すと、隅で屈んでいる総司の姿が目に入った。拗ねたのか。そう思った土方は、仕方ないと雪掻きをしていた手を止め、総司の近くへ歩み寄った。
「どうした」
後ろから声を掛けたが、返事はない。ため息をついた土方は、総司の隣に屈む。そして、総司の方へ目をやると目が合い、総司はにっこりと微笑んだ。
「雪うさぎ」
「は?」
総司の言葉が理解できないでいると、総司は指して「これ」と言った。見ると、そこには小さな雪ウサギが一羽作ってあった。
「…」
これを作っていたのか。土方は呆れて何も言葉が出なかった。慰めてやろうなどと考えた自分が馬鹿だったと心底思った。
「これ、僕なんです」
ゆびを指しながら説明し出す総司だが、土方には何を言おうとしてるのかさっぱり分からなかった。
「で、これが土方さん。こっちが近藤さんで―」
「え、」
総司の言葉に土方は身を乗り出して総司が指す方を見ると、雪ウサギがいっぱい並んでいた。総司らしいと、土方は微笑んだ。
「うまいな」
土方の言葉に総司はびっくりしたあと、嬉しそうに頬を染めた。
「そんな褒めないでくださいよぉ!」
総司はおもいっきり土方の肩を叩いた。その力が強すぎたのか土方はバランスを崩し、よろめいたあと尻餅をつき、そのまま後ろにひっくり返ってしまった。
「あっ、土方さん!」
総司が声を掛けた時にはもう遅く、雪の上にぐしゃりと派手に倒れた。その姿に総司は、思わず吹き出す。
「…総司っ!」
勢いよく起き上がると、土方は顔を真っ赤にして怒鳴った。
「わーっ、ごめんなさい、ごめんなさい。わざとじゃないんです。……ぷっ、」
謝りながら思いだし笑いをする総司に、土方の怒りは煽られる。
「お前はぁー!!」
土方は、総司の頭を鷲掴みするとそのまま雪へと突っ込んだ。総司の顔は雪の中にずっぽりと埋まる。
「土方さんっ!!」
土方の手が総司の頭から離れると同時に勢い良く雪から顔を上げた総司の顔は、冷えてなのか怒りで血が上ったせいなのか真っ赤に染まっていた。それを見た土方は満足そうに笑い、「お前が悪い」と言い残すと、立ち上がって走り出した。
「ちょっ、待って下さいよ!逃げる気ですかっ」
走り出す土方を慌てて追いかける総司。
二人が去ったあとには、総司が作ったいくつもの雪うさぎが残された。目に使われている南天の実の赤は、雪の白によく映えていた。その赤い瞳たちは、太陽の光を受けきらきらと輝く。












END

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