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□並盛鳥物語
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「起きなよ」
チロロと耳障りの良い低音が耳殻をくすぐる。
「……ぅん」
そのくすぐりは眠りを妨げるもので、たしかに欝陶しい。
だが、それ以上に声は甘やかで暖たかくて。
それに縋って深い眠りに浸りたい。
「起きないつもりかい? しょうもない子だね」
どこか呆れたような、くすくす笑いが耳殻を揺さ振る。
ああ、この声。
この口調は……。
惰眠を貪りながら誰が話し掛けているのか、脳みそを無理矢理覚醒させながら思い出そうとする。
けれども、そんなある意味器用な脳みその使い分けなんか出来るわけがなく。
どうしてもわからない。
「この僕に起こされて中々目覚めないのは君ぐらいだよ」
まったく、と小さく嘆息する様子が伝わる。
声はしっかりと聞こえている。起きようと意識はある。だけれども目蓋がビックリするほど重くて。わずかに開けてもすぐに閉じてしまう。
瞬間的に開けただけの視界では声の主を判断出来ない。
輪郭はぼやけ、なにがなんだかわからない。
しかし……。
艶やかな、黒。
そうだ、黒。
ふと眠った脳みそに浮かび上がるその色彩。
薄く開いた瞳は確実に色をとらえていた。
この口調。
このぬくもり。
この色彩。
そうだ、先程から声をかけているのは――
「ヒ……バリ……さん?」
「おはよう、綱吉」
そうだ、この並盛町を牛耳っている最強無敵のヒバリ。
雲雀恭弥、その人だ!
「ぅあ! オレ……?」
「よく寝ていたね。何度も起こしたのにピクリともしない」
「えと、その……ごっ、ご迷惑おかけ……しました」
「本当に。君は僕をなんだと思っているの」
「ぇと、……その、……」
「なに? さっさといいなよ」
「……ひ、ヒバリ、さん」
「………」
その返答が気に入ったのか、気に入らなかったのか。恭弥はどちらともわからない表情のまま目を細めた。
それをみてビクリと肩を奮わせる。
「……ま、今はそれでいいよ」
いったいそれがどういった意味合いをもっているのかわからないが、恭弥の怒りに触れなくて良かったと力を抜く。
恭弥はやさしいが、厳しい。堅実だが、理不尽な性格だ。
一度不機嫌にさせたら手のだしようがない。
「……あれ? でも、どうしてヒバリさんが家に?」
キョトンと首を捻る。
そういえばそうなのだ。
なぜ恭弥が自分のねぐらにいるのだろうか……。
「ああ、それはね――」
彼が答えようとしたのと同時に、頭上より声がかかった。