小説

□ミライヘクロユリ
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制限つきの恋。

それはまやかしのようにふたりを燃え上がらせた。だが、それも鎮火させねばならない。


「好きだったよ」
「……オレも」


愛の言葉はもはや過去形でしか交わせない。

けれどもこの別れは決して嫌なものではない。

ただ、一抹。悲しみが小さな染みとなってこびりつく。が、それだけだ。意味ある別れは有意義なもの。

不安も遣る瀬なさもない。

悲しみの染みがしつこく残っていようとも関係が無いのだ。

こんな悲しみはあっという間に腐食し風化してゆくのだから。だって、またすぐに逢えるであろうから。


「殺すしかないんだよね」
「うん、そうしなきゃ未来はかわらないから」
「ほんとっ、綱吉クンは可愛い顔して残酷だよね」
「なんだよそれ。白蘭だってそうだろ?」
「残酷? ボクが?」
「そっ!」
「違うよ、ボクは君には優しいもの」
「………………うん」
「あれ、否定しないんだ」
「あー……、だって事実そうだし。オレのワガママで白蘭にオレを殺してもらうんだから」


振り返りもせずに言い放った言葉はストンと互いの空洞の心に沈んでいく。

ゆっくりと瞼を閉じて思考の中に耽る。

ふたりが出会ってから約束したことを。

それは単純なこと。けれどもなによりも重要で悪しき約束。



未来を変えるというもの。



綱吉が強制的に殺人という形で死を迎えるというもの。



そうしたことによって未来はかわる。


これは事実。


だって、綱吉が十四歳のときにそれを目の当たりにし、経験したのだから。




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