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□わからず屋におめでとう
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嫌だったとかではない。

ただ、なんとなくこのまま雰囲気に流されてはいけないと思っただけなのだ。


「べつにいいよ。僕も急ぎすぎたと思うし」
「……?」


なにが急ぎすぎたのかよくわからないが、ともかく恭弥が怒らなくて良かったと胸をなでおろす。ムクれた恭弥のご機嫌を直すのには正直骨が折れる。

それに、今日は恭弥に気持ちよく過ごしてもらいたい。だって今日は大切な日なのだから。


「で、綱吉」
「はいっ」
「行くよ」


一瞬の間。

ぴゅうっとすっかり暖かくなった風が吹く。


「どこに……?」
「どこでもいいでしょ」
「ええ!? 困りますよヒバリさん。オレ用事が……」
「そんなものどうでもいいよ」
「えっ、でも!」
「……僕の言うことがきけないわけ?」


剣呑な空気が流れ始める。


「ムリ、です。今はちょっと……」


恭弥は睨みを利かせ、綱吉は意固地になる。

だって今はダメなのだ。絶対にムリ。

ずっと準備していたのだ今日この日の為に。

だから今はいくら恭弥に言われても遊びに行くことは出来ない。


「綱吉は僕に着いてくればいいんだよ」
「ですから、今はっ」


どうしてわかってくれないのだろうか! 綱吉は悶々とする気持ちを落ち着かせようと深呼吸する。が、気持ちは晴れない。


(ヒバリさんのわからず屋)


どうして今日に限ってこんなにも粘るのだ。

いつもだったら「ふーん」とか目を細めながら言って帰るのに。

そう、恭弥は綱吉が嫌がることはけしてしない。よく怒るけれども嫌がらせなんかはしないのに。


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