小説
□今宵祝福を
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ボンゴレの屋敷がある敷地内。
夜闇に飲み込まれた小さな、けれども広い森。明かりは少ない。遠くにある屋敷の明かりがほんの僅かに森を照らし、頭上に耿々と一万億の星々と唯一の月の輝きが光を降り注いでいる。
森は硬い人工物の明かりと柔らかな天然物の輝きで厳かに包み込まれていた。
「ザンザスー、もう帰ろうって……」
そんな森の中からガサガサと獣道の草木を掻き分け掻き分け、綱吉が疲れたような声で前方を闊歩するザンザスに声をかけた。
「……先に帰ればいいだろうが」
「そんなこと言われても帰り道わからないよ」
「ついて来いなんていった憶えはないぞ」
「そんなこといわれても……」
「っち、カスが」
ぶっきらぼうに言い切ると、ザンザスはようやく足を止め綱吉に向き合った。
綱吉は荒く肩で息をしている。ザンザスは普通に歩く歩幅で、むしろゆっくり歩いていたぐらいなのだが、綱吉にとってはそれでも彼の歩のスピードは驚異的に速かったのである。
これが、現ボンゴレのボスか……。
ザンザスは綱吉に気付かれないように小さく嘆息した。
綱吉は小さい。
イタリア人と日本人を比べてしまってはなんだが、それでも小さいだろう。現に雨の守護者でもある生粋の日本人、山本武との差は歴然である。
そんな小さなちいさなドン・ボンゴレ。
けれども誰よりも大きな、総てを包み込む強さをかね揃えた存在。
唯一無二の、現在。
リング争奪戦で憎むべき対象として争い、そして王として息づいていた己を類まれなる能力で打ち負かした者。