小説
□踏み外した気持ち
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「……どうしてっ!」
枯れた声で喚く。
信じられなかった、信じたくなかった。
眉間をギュッと寄せて、涙を堪える。
拳を強く握って懐から銃を出さないよう戒める。
そうでもしなきゃ、すぐさま放ってしまいそうだった、――弾丸を。
「ははっ、やっぱツナにはかなわないのな」
煙る雨の中でもはっきりわかる山本の顔。少し苦渋の表情をしてはいるが、相変わらず口元には爽やかな笑みを浮かべている。
どんな困難に立ち向かっているときでもその表情は変わることがなかった。
遊んでいるとき、会議しているとき、寛いでいるとき、勉強しているとき、戦っているとき……。
その表情にいつも支えられて和まされてきた。
信頼していた、その笑みに。憧憬さえ感じていた、軟らかな笑みに。
それなのに、それなのに。
今は、その笑みは自分を裏切り敵となった。
綱吉はギリリと奥歯を噛み締め普段からではおよそ考えられないような厳しい顔で山本を睨み付けた。
その表情は紛れもないイタリア最強のマフィア、ボンゴレの十代目の顔だった。
「どうしてっ! どうしてだよ、山本っ!」
厳しさの中に孕まされた悲痛の声音。それは聞いている者の呵責を刺激した。
「わりぃな……」
山本はそれだけを呟き、構えていた愛刀を力なく降ろした。途端、ピンときつく張り詰めていた空間が緩和される。
雨が二人だけの空間を包み込んでゆく。
* *
山本は今から二時間前、ボンゴレを裏切ったのだ。
理由は、わからない。
ただ、わかったのは――、綱吉の命が狙われた、という事実。
執務室で業務をこなしていた綱吉の元へ突然フランスで仕事をしていたはずの山本が刀を綱吉に向けて乱入してきたのだ。
綱吉は刀を向けて突然入って来た山本に驚き、身を護る事が出来なかった。だが、ちょうど執務室にいた獄寺とリボーンによって護られ、事なきをえた。
山本は獄寺に抑え込まれていたが、一瞬の隙をついて逃げられてしまった。――獄寺に一太刀、傷を負わせて。
その後、部下には内密に守護者だけに伝令を与え、山本の捜索が始まった。
綱吉はリボーンに、山本を探すなと脅されたが、それを振り切り捜索にあたったのだった。