小説
□夢の記憶
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――忘れていく。
脳内に刻み込まれた記憶。それは簡単に消えていってしまう。あまりにも無残に。
記憶は提唱することができない。
そう、できないのだ。
記憶を誰かと分かち合うことに成功したとしてもそれはどこかで少しずつ食い違っているものだ。記憶と言うのはその人間個人だけのもの。
その人間だけが知りうるものなのだ。提唱どころか定義することすらかなわないのだ。
ああ、なんて信じられないモノなのだろう。
ああ、そして。
ああ、どうしてこんなにも振り回され、忘れていくのだろう。
――記憶を。
「あっ、あああ!」
泣き腫らした目を見開き、両手で頭を抱えて叫ぶ。
「いやだっ、いやだっいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ!!!」
悲痛な叫び声を喉からあげながら綱吉はベッドの上でのた打ち回っていた。
「綱吉君っ!」
ベッドの隣にある椅子で仮眠をとっていた骸がその悲鳴に飛び起き、泣き叫ぶ綱吉の肩を強く掴む。
「いやっ! いやだ、だめ……消えないで消えないで消えないで!!」
「綱吉君!!」
――パシンッ
綱吉の肩を掴んだ骸は暴れる綱吉を起き上がらせ、軽く、だが、しっかりと綱吉の頬を叩いた。
「ッ!!」
「つなよし、君」
「………む、く、ろ?」
頬を打たれたその衝撃に綱吉は我に返る。
「大丈夫ですか?」
「…うん、ごめん…」
「謝ることじゃないですよ」
にっこりと安心させるように骸は軟らかな笑みを浮かべた。
「どうしたんですか? ――また、」
珍しく骸は言葉を詰らせた。ボロボロに衰弱した綱吉に今この問いかけをするのはあまりにも酷な事だろうと判断したからだ。
だが、綱吉はそんな骸をしってか反して笑顔をみせた。やつれた笑みだが凛としている。
「うん、そうだよ。また、あの夢をみたんだ」
「やはり……」
骸は俯いた。
“あの夢”とは二週間前に起きた事であった。