小説
□ミライヘクロユリ
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この唇と唇の合わせが、静かに淑やかに虚しく悔しく哀感に満ち足りて離れるその時――互いに見つめ合いも振り返りもしないで。
厳かにけじめを刻み込み己が戦地へと踏み出してゆく。
この時の心境は虚無。なにも無い心内は凪いだ海よりも冷静に鋭く前方しか見ない。
「別れなんだねー」
思わず出した声は渇いていた。
唇を合わせていたときはあれほどまでに濡れていたというのに。
「さびしい?」
ゴミゴミとした街の隠れた一角。綱吉は拳ひとつ分離れた場所で白蘭に背を向けたまま訊ねた。
「うん――そうだね」
白蘭が言葉を返した。余韻を味わうようにゆっくりと。
「感傷に浸るだなんてらしくないよ」
「うん」
ほんとーに。と肩を揺らして笑う。決まっていた、こうなること。
ふたりにはこの結末しかないことだなんてしっていた。
別れる、ということ。
憎しみあい、貶しあい、殺しあう。
敵同士になるということ。
それは付き合いだすときから理解し合っていた。けれども求め合った。もしかしたら、先がわかっていたからこそ深く絡み合ったのかもしれない。
ともかくふたりは愛し合い、そして今から殺し合いを始めなければならない。
だから、わかれる。
別れなければならないのだ。ちゃんとした敵同士になるために。