短い夜

□幼なじみ
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一歳年下の君はワタシの幼なじみ。


世界にただ一人の大切な幼なじみ。




同じ幼稚園で同じ小学校で同じ中学で同じ高校。


君はワタシを追いかけるヒヨコみたいに着いてきた。




行き帰りも一緒。


ずっと一緒だった。




だから、ワタシは君を失う辛さを知らなかったんだね。




ある日、君は恋をした。


同じクラスの子が好きだと言い出した。




ワタシは嬉しかった。


君は高校まで人を好きになったことがなかった。


そんな君が大人に近づいたんだと思って嬉しかった。




君はワタシに助けを求めた。


ワタシに相談した。




ワタシは君を応援した。


君にアドバイスした。




君は頑張った。


初恋を叶えたいから。




ワタシもやれることをした。


君の初恋を実らせたいから。




ある放課後、君は走ってワタシの元に来た。




「俺、あの子と付き合えることになった!!」




君の満面の笑み。


ワタシに向けた満面の笑み。




“おめでとう”


ワタシは言おうとした。


しかし涙が溢れた。




この涙は…何?




君はオロオロしてワタシを見た。




「くッそ。嬉しいじゃねーかコノヤロー」


ワタシは無理して笑ってみせた。


君はワタシの涙がうれし涙だと思い、ホッと息をつく。




「……ばーか……」


誰にも聞こえないような声で呟く。



馬鹿だな…




君は…




いや、ワタシか。




世界で一番馬鹿なのはワタシだ。




自分の気持ちに気づかないなんて。




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