「片思いって実るか実らないかのどっちかだよな」 今日も丸井は唐突にわけのわからないことを言いだす。 わけわからんよ、と本人に言ったところで、不機嫌になられても困るので決して本音は言わないようにしているが。 「んー、そりゃそうじゃのう」 「てことは成就する場合もあるわけだ」 「んー、そうやね」 「…だよなー」 丸井はベッドの上に寝転んで英語の参考書を読んでいるようだった。 今日は日曜日。明日はテスト。ということで、一人でいたら勉強なんてさらさらやる気にならないという丸井と二人で勉強会をしようということになった。 しょうがない奴やのぅとも思ったけれど、お互いの得意科目がお互いの苦手科目である俺たちは、一緒に勉強すると何かと便利なのかもしれないと考え直して今に至るというわけだ。 その「今」というのが、二人でいい子に勉強だったらどれだけ良かっただろう。 俺は国語が苦手だが嫌いではないから、それほど苦にはならないけれど、丸井の数学嫌いは筋金入りで、すぐにこうして飽きて他のことにホイホイ手がのびていく。それが英語の参考書っていうのは意外な行動だけれども。 俺はといえば丸井がやった数学プリントの丸付けだ。 「でも俺は成就しなかったよ」 「なにが?」 「好きな奴に告ったらふられた」 「あ、そぅ」 「あっそってそれだけ!?」 いやいや、そんなことを言われましても、と言ったら丸井は薄情者!と言ってプリプリと怒りだしてしまった。 前に丸井が言っていたが、俺は丸井を不機嫌にさせる天才らしい。 なぜか俺の発言や行動は丸井の気にくわないものばかりなのだそうだ。 「う〜ん、まぁ、そーゆーこともあるさ」 「仁王にはあるのかよ」 「え」 「ないだろ」 「ないな」 「〜っ、むかつく!」 バフッっと音を出しながら、丸井はベッドの上にあるリラックマのクッションに勢いよく顔を埋める。 まぁ、確かに正しいかもしれない。俺は丸井を不機嫌にさせる天才。 ちらっと丸井の様子を伺えば、丸井は絶対に頭に入っていないだろう英単語を目で追いながら、なんとなく寂しげだった。 ふられたって、あの丸井が?それがまだなんとなく信じられない。 丸井はまぁ、背は小さいけど人よりモテる。顔も整ってる方だし、明るくてムードメーカーだから一緒にいて楽しい。からかいがいもあるし、男らしいのに時々甘えたになったりして可愛かったりする。それに表情豊かだから見ていて飽きない。何気に一緒にいて居心地もええし。 だからこそ、ふられたということが信じられないのだ。その告られた奴というのも、けっこうもったいないことをしよる。 「なぁ、誰に告ったん?」 「誰でもいいだろぃ」 「まぁまぁ。俺と丸井の仲じゃろ?」 「知り合い程度だろ」 「つれないのぅ」 本格的に丸井が不機嫌だ。もうこうなると手をつけられないから、そっとしておこう。 「仁王くんさぁ、」 「ん?」 そっとしておこうと決めたそのとき、丸井が話しかけてきた。がしかし。 「それでも詐欺師なの?!」 まただ。丸井はいつでも急なのだ。 「えっと、まぁ、一応周りからはそう呼ばれてますが」 「…うそだよ」 「嘘やないし…」 「ちがくて!」 丸井の様子がおかしい。話が噛み合っていない。俺が詐欺師と呼ばれていることの何が違うというのだろう。 リラックマをぎゅっと抱きしめてもどかしそうにベッドの上に座る丸井は、いつもより幼げに見える。とん、と軽く押しただけでパタリと倒れ、すぐさま泣き始めてしまいそうなほどに。 「なにが違うん?」 「告ってふられたこと」 「え、」 「だから、俺、告ってないしふられてないの!さっきのは嘘!」 嘘?なんでそんなこと。 「…うそ?」 「うん、嘘だ」 「…えっと、あ、…そぅ」 「…っ!」 そぅなんや、と言おうとしたとき、不意に丸井の瞳が朧気に揺れる。 「まる、」 「なーんちゃって!フラれてないってのもうっそー」 「え」 「ずたぼろにフラれて、丸井くん傷心中でーす」 ピースした手を前に突き出して、丸井は明るく言う。 「騙されるなんて詐欺師も落ちたもんだなー。ほら、仁王くん!丸付け終わったの?!」 「まだ…」 「ったくー、早くしろぃ!」 「お前、やってもらってる身じゃろうが」 「ははっ」 心外だ。 「お!俺ってば、天才的ぃ!70点とかすごくね?」 (詐欺師も落ちたもんだなー。) 「今回のテストは仁王くんより上かもなー」 (片思いって実るか実らないかのどっちかだよな) 「ブン太」 (てことは成就する場合もあるわけだ) 「なに?…、あれ今、名ま…」 丸井の言葉を遮って、数学のプリントを持ったままの丸井を抱き締めた。 俺たちに挟まれたプリントがくしゃっと音をたてる。 「!…に、仁王く、ん?」 「詐欺師も落ちたもんだって言うたけど」 「……」 「俺はまだ現役バリバリなんよ」 「……」 「詐欺師は騙すのが得意なんじゃ」 「……」 「人を騙すのも、」 「……」 「自分を騙すのも」 「………、」 俺の腕の中にいるブン太は黙ったままだ。赤くてふわふわとした髪からは、女物の甘いシャンプーの香りがする。 「…おれ、いま英語の参考書読んでたんだ」 「ん?うん」 「英語って嘘つきだ」 「…なんで?」 「…片思いはちゃんと実るから」 そう言ってきゅっと抱きしめ返してくる。 「あっそ…」 そのあと、俺は丸井から「あっそ」と言うのを禁止された。 それから、丸井が言うには俺は「丸井を幸せにする天才」でもあるらしい。 悪くない、と思った。 END お久しぶりです。← ブン太の泣きそうな顔をみて「好き」と実感した仁王くん。ちょっとSぽい。最近、普段は甘いのにいざとなるとめっちゃSになる仁王にきゅんときます。「なんでいつも優しいのにこんなときだけSなんだ、こいつは!」ていうブン太きゅん。 では、また次のお話で!こんなところまでお読みいただきありがとうございましたoyz! 2009/08/16 咲良 |