book

□復讐ならば鮮やかに
1ページ/1ページ



「えっと……?」


ちょっと待ってちょっと待って。何だ、この状況。…ありえない。てゆーか、気持ち悪い!


「ね、仁王…」
「いかんぜよ、こっち見んで」


おいおいおいおい、テメーは何で照れてんだよ。おかしいだろ。仁王雅治か?ほんとに仁王か?詐欺師じゃないのか?詐欺師…あれ?まさか入れ替わり中?…柳生?えー!柳生!?


「落ち着こう柳生!」
「お前が落ち着きんしゃい」


そうか、柳生の言う通りだ。落ち着こう。そして今、この状況を整理しよう。今あたしの目の前にいるのは、親友、そして悪友の仁王雅治。申し分ない程の容姿に、必要以上のフェロモンを持ち合わせた男。不特定多数の女の子を持つ男。の格好をした柳生。


「やぎゅ…」
「柳生じゃなか」
「嘘っしょ。あたしが仁王を間違えるわけない!」
「嬉しいがのぅ。俺、仁王なんじゃが…」
「いんや!違うね!仁王はこんなことしないもん」
「はぁ……」


そしてあたしの手の中には、仁王に扮した柳生が渡してきた箱。ラッピングとか、わざとらしく赤いリボンとか。おかしいおかしい。例え今日がホワイトデーだとしても、おかしい。


「これって、」
「…なんじゃ。俺がお返ししちゃ…いかん、のか?」
「え゛」


今こいつ"お返し"とか言わなかった?待て待て、覚えてるぞ。1ヶ月前のバレンタインでしょ?そりゃね、1年に1度の乙女の日よ。1年で最もピンクな日よ。みんな頑張ってたよね、うん。あ?あたし?普通に女友達にしかあげなかったけど?好きな人とかいないけど?!寂しい人間だけどぉお?!あ、落ち着こう。仲間はたくさんいるって、うん。まぁつまりさ、


「あたし、あげてないよね?」
「え?」
「柳生にも仁王にもあげてない」
「…お前さん、まだ柳生だと思っちょるんか?」
「まさか…どっちでもない?」
「アホか」
「…まぁ、柳生よりかはね」
「だから!柳生じゃなか!」
「いやいやいや!」
「お前の目は節穴じゃ」
「待て!風穴に訂正しろ!」
「なんじゃ?俺を吸う気か?」
「ハッ……!」


風穴に即座に反応!こいつ、にに、仁王だ!弥勒様の右手の秘密を柳生が知るわけない!だってアイツ紳士だもん。紳士は漫画読まないもん。読んでたら、ソイツは間違いなく、柳生に扮した仁王だからね。


「仁王?」
「柳生が犬夜叉知るわけなか」
「だだ、だよね〜」
「………」
「………」
「なぁ」
「はい?」
「開けんの?」
「ん?」
「それ、」


クイッと仁王の顎が、あたしの持つ箱を差した。箱っていうか、完全にプレゼントですよね?これ。てゆうか、思い出したわ。あげたわ、バレンタイン。あげたって言っても、飴だけどね。男梅だけどね。なんかさ、くれないのか?って言われたから、ポケットに入ってたのあげたわ。そーだそーだ。なんだぁ、あれ喜んでたんだ〜。明らかに、は?みたいな顔してたのにね。長年一緒に悪いことしてきたけど、やっぱ仁王は読めない男だわ。よし、貰ったんだもんね。開けよう。開けてあげよう。きっと中には、あたしの大好物、ようかんちゃんが待ってるはず!いざ、オープン!


ビヨンッ
「ブッ!!」


いったーーーい!!痛い痛い!何これ?!何このグローブ!赤いし!赤いグローブ飛び出てきたし!典型的だし!思いっきり顔面パンチくらったし!乙女の大事に顔に何してくれとんじゃー!何か赤いし!床赤いし…ってこれ鼻血じゃん!


「テメー!何すんじゃー!」
「……っ…ひっ……!」
「サイレント爆笑かぁぁあ!」
「…ひぃ…っ…!」
「潰す!」
「待て!待ちんしゃ…プッ」
「死なす!!」
「待ちんしゃいって!!」


まぁどんなに追いかけても、テニス部の足には追いつかないわけで。疲れて座れば、仁王も横にチョコンと座った。何だかんだ言ってさ、仲良しなんだよね、うちら。モテモテの仁王の横にいるあたしが、ギラギラした女の子たちに苛められたことがないのは、仁王がそうさせてるし。仁王がサボったときの授業のノートを、写しているのはあたしだし。丸井や切原くんをいじるのは、2人一緒だし。


「お前さんといる時が」
「ん」
「一番、楽しい」


かも。とか言う仁王に、先ほどの箱を無言で渡した。仁王も無言で受け取る。中のグローブは、出しっぱにしてたから、もうバネが伸びてしまっていた。もう使い物にならないだろう。しかし、仁王の手にかかれば、それはマジシャンが使うハットになる。


「じゃーん」
「…あ〜!!」
「なーんだ?」
「ようかん!何で?!」
「好きじゃろ?」
「大好き大好き!」
「そ、そうか」






大好きって…鼻血、出そうじゃ。





.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ