book

□やっぱり嫌い
1ページ/1ページ




所謂、犬猿の仲というのだろうか。


私と仁王は世間でいう幼なじみというもので。
物心ついた頃から競い合い、ライバル意識を燃やし続けて、いつの間にか、その存在自体が“苦手”なものになっていた。

だから例え周りの子達が羨ましいと言っても、そんなに羨ましがる事なんて1つもなくて。
会ったら絶対言い争いになるその事実に嫌気が差していた。

私は別に、仁王が嫌いな訳ではない。
むしろカミングアウトしてしまうと、好きだ。
ただ、昔からの癖で意地を張ってしまうから、マトモな会話なんてした事はなかった。




そんな彼の家に遊びに行ったら、久しぶりに会ったおばさんに家に連れ込まれてしまった。
しかも何故か仁王の部屋に通されてしまい、今に至る。

ぶっちゃけ何を話したらいいのか分からないし、会話を模索しようにも頭が熱くてパンクしそうだ。
当の仁王本人も、机を挟んだ位置に無表情に肘をついているし。
何故こんな事になったのだろうか、と心の中で問いかけても無意味だった。
いくら考えても今の現状は変わらない。



「…で、何しに来たんじゃ?」
「……別に…」

いつもこうだ。
仁王に話しかけられると対抗したくなってしまう。

素直に慣れない自分がムカついた。

でも、自分でも思っている事を
「相変わらず可愛くない女ぜよ」
そう、言われて。
私は更にムカついた。
しかもわざわざフッ、と笑顔を浮かべて呟かれたから、怒りも倍増だ。


「…、アンタほどじゃないわよ」
「だからなんじゃ?」
「ウルサイ」

会話なんて全然成り立ってないし、むしろ何を話しているのか分からなくなってきた。
ただ分かるのは、お互いに言いたい事を言ってどんどんヒートアップしているという事だ。
素直になれなくて、それが更に悪化する。

「…やっぱり嫌いよ、アンタ」
「奇遇じゃな、俺も同じ意見ぜよ」
「ふーん、そう。じゃあ私帰るわ!」

そう言って私は勢いよく吐き出して勢いよく立ち上がった。
おばさんは「もう帰るの?」と言って引き留めてくれたけど、あんな言い争いをした以上、これ以上はここにいられない。


(あーあ…)


「「もっと素直になれたら…」」


そうしたらきっともっと楽しいのに。
そう思わずにはいられなかった。





.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ