一周年記念祭
□知らない
1ページ/1ページ
「送ってやるよ土方。」
自転車のカギが無い、とありとあらゆるポケットを探りながら騒いでいた俺にそんな助け船を出してくれたのは、一個上の坂田先輩だった。
「じゃ行くぞー。」
「あ、はい。」
そして今に至る。
随分と安定した動きで俺を乗せた自転車は、秋の冷たい風の中を切り抜けながら進んでいった。
俺は、先輩の後ろに乗せてもらってる緊張と少しの優越感に浸りながら、そんな秋の風を感じたのだった。
「なんか、すみません。」
「いや、いいって。どうせ同じ方向だし。」
「ありがとうございます。あ、駅前でいいんで。」
「りょーかい。」
慣れたようにハンドルを動かす先輩に、ニケツすんの慣れてんのかな?なんて思いながらも、それからあまり会話が進まないこの雰囲気にちょっと戸惑っていた。
思えば、基本的に人に絡まない(絡まれるのは多いが)坂田先輩が、わざわざ俺を送ってくれるなんて随分と珍しいことだと思う。
面倒なこと嫌いそうなのに。
他の先輩に比べれば後輩の俺らに構うことなんて滅多にないし、プレーしてる時以外はいつも気だるげだ。
まあ、そのプレーしてる時がめちゃくちゃかっこよかったりするんだけど。
部活に対する姿勢は誰よりも真面目だし、部活のときはいつも難しい顔してるけど、プレー中に点決めた時に笑う顔とかすごくいいなあって思ったりする。
指示も的確だし、俺がレギュラー入りしたときもなんだかんだ言って世話やいてくれたし。
そう言えば俺がケガしたときも…
「…かた、おい、土方!」
「え、あ、はい!」
「お前よく後ろに乗りながらトリップできるな。」
「いや、あ、すみません。」
「まあそれはいいんだけどさ。お前、掴まなくていいの?」
「?何がですか。」
なんていつのまにか、意識は別のとこにいってたみたいで、不思議そうな顔をした坂田先輩が俺のことを呼んでいたのだった。
慌てて返事をした俺に、顔を前に向き直した先輩はそんなことを言うと、何かわかってない俺に対して急にフラッと蛇行運転をし始めた。
「うわっ!ちょ、ちゃんと運転してくださいよ!」
「だから、掴まなくていいの?って聞いただろ」
「先輩がちゃんと運転してくれればいいじゃないですか。」
「…あーそう。」
俺の返事に少し不満げな声をもらした先輩に、首を傾げつつも煌々とした駅前の明かりを見つけた俺は、「ここで大丈夫です」と先輩に声をかけようとした。
したが、
「え、先輩?駅通りすぎますって!ここでいいですよ!」
「お前今日はもう遅いから俺ん家泊まれ。」
「はあ!?で、でも明日も部活…!」
いきなり速度を上げた自転車は、俺に降りる暇も与えず白々しいほどの態度で駅を通り過ぎたのだった。
訳もわからず、とりあえず先輩の背中を叩いて揺らすと「そのまま掴んどけよ」と呟いた先輩は、さらに自転車の速度をあげたのだった。
「明日の朝も乗せてってやるからさ。」
「…!」
「必要なのは俺の貸してやるし。な?」
そう振り返った先輩は、あのコートでしか見せない笑顔を俺だけに見せてくれていて。
「……学年で、ジャージ違うんですよ。」
なんて、なんとも可愛いげのない言葉しか俺は返せなかったのであった。
知らない
(そんな恋の落ち方なんて!)
____________________
なんという坂田先輩。
土方に憧れを抱かれる坂田が
イマイチ想像できません(笑)
でも坂田先輩って響きだけでも
かっこいいと思います。
.