一周年記念祭

□夏色
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「土方っ、帰ろう!!」


ホームルームが終わり、部活に行くやつ、帰る支度をはじめるやつ、とどちらかに一方に分かれるクラスは、未だガヤガヤと煩さを残していた。
これから遊ぶ計画を立てているのか、どうするー?という間ののびた女子の声を聞きながら、どちらかと言うと後者である俺は(今日がオフなだけだが)帰り支度をはじめていたのである。

なんだよこの晴天…!なんて、朝の淀んだ天気を思い出しながらバスで来たことを後悔していると(俺はあの密集しなければいけない空間が嫌いだ)クラスの後ろにある戸がガラガラっと音を立てて開き、薄っぺらい何も入っていないようなカバンを肩に下げた銀時が俺の名を呼んだのだった。

その生き生きとした表情に、心配性な俺と違って、きっとこいつは朝の今にも降り出しそうな空を見ても気にせず、自転車で学校まで来たのだと俺は確信をしたのだった。
残念ながら、バスで帰る俺とは一緒に帰れない。


「悪い、俺バス。」

「えっ、なんで?降ってなかったじゃん!」

「でも降りそうだっただろ?あーあ、なんでこんな晴れんだよ…」


俺もチャリでくればよかった、といまさらなことを思いながらも、これからあの暑苦しい密集地帯に挑まなければいけない事実に、鬱々としているとその様を見た銀時はあ、何かを思いついたように小さく呟いたのだった。


「じゃあ、乗ってく?」



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「…あちぃな、もっと早くこげねえの?」

「おまっ…!さっきまでびくびくしてたくせに!」

「びくびくしてなんかねえっ!」

「ちょっ!落ちる落ちる!」



真夏の日差しを受けながら、俺はそれなりに心地よい風に身をまかせていた。

銀時のうまい話に、そりゃあいいと言わんばかりの笑みを浮かべた俺は、さっきまでの鬱々とした雰囲気はどこへ行ったのかと思うほどの上機嫌で、チャリを持ってくる銀時を校門で待っていたのだった。
ただ、2ケツなんて久しぶり(しかも大概俺が漕ぐほう)で銀時のチャリの前で落とすなよ落とすなよ!なんて少々びくついてたのだが。

そんな不安定な乗り物におもしろさを見出だしはじめた頃、自転車のスピードが落ちはじめ、何事かと不機嫌に前を覗き込めば二俣の道を前にどっちがいい?と聞いてくる銀時の目とかち合った。


「…ああ、そうか。」


俺たちの帰り道には、別れ道がある。
一つは朝通る道と同じで、コンビニやゲーセンなどがある寄り道したいときにはちょうどいい、町中の道。
もう一つは少し遠回りになるが、長い下り坂があって、かなり気持ち良く風をきって帰れる堤防沿いの道。(ちなみに裏道なためかコンビニすら1店舗もない)
そのどちらがいいのか、わざわざ俺の意見を聞いてくるあたり銀時も律儀なやつだなあ、なんて思ったりした。


「俺的にはさー、今日ゆっくり帰りたい気分なんだけどー…、」

「俺も同感。」

「うそ、まじでか!よし、じゃあしっかり掴まってろよ!」

「え、あ、ちょ銀時!」


俺が常に、とりあえず早く帰りたい派だということを知っているからか、言いにくそうに自分の主張をしてくる銀時に同感だと伝えると、いつにもまして生き生きした声音に、銀時のシャツを握り締めていた手のひらを取られて、それは当然のように奴の腰に回されてた。
突然の行動に驚いた俺が何かを訴えようとしようにも、すでに自転車は前に進んでいて銀時の「落ちんなよ!」という声が遠く耳に届いただけだった。

ブレーキを握ることすらしない銀時に、いささか恐怖を感じたものの、しっかりと掴まされた奴の背中に人知れず安心を抱いたりしていた。絶対に口に出したりなんかしないが。


「やべぇ!最高っ!!」

「銀時っ速い!ブレーキくらい握れ!」

「いいじゃん気持ちいいんだし!…ああ!やっぱ土方は怖いのかぁぁ!」

「怖くなんかねえぇぇ!!」

「じゃあー俺の腰にぎゅっと抱きついてくるこの腕の強さはなんですかぁー?」

「…!、これはてめえがっ、うわっ!!」


このままハンドルを離しかねない銀時に、お前はスピード狂かっ!とツッコミを入れたくなるも、どんどんとスピードを増す自転車に俺は翻弄されるだけだった。
それに比例して強くなる俺の腕の力に気付いたのか、それからもずっと銀時はおもしろそうに(いや、馬鹿にしたように)笑うのだった。


「…笑ってんじゃねえぇ!もう死ね!このクソ天パァアア!!」

「!!、だから暴れんなっつってんだろォオ!!」

「、ぶっ!ははっ!あははっ!お前んな慌てなくても!」

「てめっ!!銀さん発案スペシャルジェットコースターの威力を味あわせてやろうかっ!」

「意味わかんねー!!」


幸いこんな馬鹿な俺たちを見ている人は誰もおらず、まるで小学生のようにでかい声を出し叫びながらも、なんだかんだ言いつつこの長い下り坂を楽しんでいた俺たちは、これまた大声で笑いながら風をきって帰っていったのだった。



(抱き締める帰り道)








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ちょっと青春した銀土。

土方さんは、次の日から
晴れてもバス通学になります。











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