一周年記念祭
□アルバム
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久しぶりに戻った自分の家は、散らかった本があちこちに置かれているだけで、特に汚くもなく、かといって埃塗れの机や椅子を見るかぎり、この部屋が綺麗と呼べる状態ではなかった。
最近は忙しくて家に帰ることもままならない日が続いていたのだが。この様子だとようやくもらえた明日の一日だけの休暇は、家の掃除に費やされそうだ。
深いため息を吐きながらソファーへと腰掛けた。
「……。」
一人で暮らすには些か広すぎる家を見渡してうつむく。
疲れが、どっと押し寄せてきた。
思えばこれほどゆっくりできたのは、本当に久しぶりだった。
意味も無くいつからだろう、と疲れた頭が答えを求めて回転をしはじめた。
近ごろは忙しかったから、ゆっくりする暇なんてなかったのだ。
なんで忙しかったのだろう。
いつもはサボる余裕を作れるくらいの仕事しかないのに。
次から次へと出てくる疑問の数々に頭が痛くなるもふと顔を持ち上げ、視線の先にある一枚の写真を見つければそんな疑問はすべて解決した。
ああ、あいつが死んだからだ。
やけに冷静な脳が、なんでもないことかのようにひとつの答えを導きだした。
ただ一言の事実がすべてを納得させる。
忙しいわけではなかった。
嫌いな書類整理もひたすらに腕を動かして、早めに終わらせた。
事件だって特に大きいものがあるわけでもなかった。
ただ、小さな仕事を馬鹿みたいに探し求め、自分で忙殺を作り出し追い詰めていたのだ。
それもこれも、ただの逃避である。
あいつを忘れたいわけではない。
むしろその逆で、あいつを忘れてしまいそうな自分がひどく浅ましく、そんな現実から目を背けたいがためであった。
しかし、いくら仕事に埋もれていってもその感情は少しも紛れることはないのだった。
唯一残していた、たった一枚のあいつとのつながりを見るたびに、もっと残しておけばよかったと思うのである。同時にもっとあいつの存在を焼き付けておけばよかった、と私は後悔をするのである。
あいつが存在した現実はいやというほど覚えている。
語り合った夢、ふざけた戯言。
枝葉もない口論をしたことだってはっきりと記憶している。
だが、あいつの声やぬくもり、コロコロと変わる表情は日に日に脳から消えていこうとするのだった。
お前が記憶の片隅から薄れていきそうないま、私は何にすがってお前を思い出したらいいんだ。
後悔とも自責ともとれない感情に苛まれながらも、また私は一つだけあるヒューズの証をただただ眺めるだけなのであった。
変わらない笑みを残すその写真は、とても悲痛な一枚だった。
アルバム(記憶を焼き付けて)
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暗すぎる鋼。
これの反動が
クリスマスでした。
写真はもちろん
例のあれです。
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