銀時が屯所に乗り込んで来てから約3時間。
奴は何するわけ出もなく、デスクワークをしている俺の横で持参したらしいジャンプを読んでいた。
声を掛けても鈍い反応しかよこさない銀時に、最初はいつものうるささが無くて清々していたが、仕事が終わっていくにつれ、何もちょっかいをかけてこない銀時になんだか俺は落ち着きがなくなってきた。
いや、断じて淋しいわけではない。
ただ、いつもべったり張りついてきて欝陶しいやつが、急におとなしくなったりすると変に思うだろ?
だからちょっと不思議に思ってるだけだ。
決して、俺が構ってほしくて落ち着きが無くなってるわけではないんだ。
「銀時。」
「んー?」
「ああ、…別になんでもないわ。」
「あっそう。」
「……」
だ、断じて淋しいわけではない!
俺を見ずに生返事を繰り返す銀時に、さすがに苛立ちがつのるも、同時に俺の中には言いようのない複雑な感情も入り交じってくるのだった。
俺よりジャンプが好きなんだろうか?
ふと、思いついた考えに少し胸が苦しくなる。
甘味には負けてるとは常々感じてはいたが、ジャンプにまで負ける日がくるとは…、あれ?つうか500円にも満たない雑誌に負ける俺って何?
「…ぷっ、」
「…え?」
「ふっ、ふはっ、…ははっ!!」
そんなことに落ち込んで、下をむいて泣きそうになっていると背後から、空気の漏れたような音が響いた。
何の音だと振りかえれば、未だジャンプを広げてはいたが、しっかりと俺を見ている銀時が口元を手で押さえながら笑いをこらえている。
押さえきれない笑い声が少し気持ち悪かった。
「…え、なに?」
「あははっ!はあ、もう無理!ちょ、お前可愛すぎる!」
「はあ…?」
目に涙さえ浮かべながら大笑いをする銀時に、苛立ちよりもまず不信感を抱いた。
そんな疑問を口にする前に、銀時の手が俺に近付いて、奴はわしゃわしゃと俺の頭を乱暴にかき回したのだった。
「…なんだよ。」
「ほんとお前って可愛いのな、土方。」
「だからなんでっ、」
「そんなに構ってほしかったの?」
「っ…!」
次いで髪を梳くように撫ではじめた銀時は心底楽しそうに笑っていて、俺の顔はさらに真っ赤に染め上がるのだった。
「な…!そ、そんなわけ…、」
「いやいや、可愛かったなあほんと。俺にそっけなくされて落ち込んでやんの。」
「ちがっ!それは…!」
「おいで」
「…っ、」
迎えるように手を広げた銀時は、なんとも穏やかな笑みを浮かべていて俺の心を震わせた。
決して淋しかったわけじゃない。
そんな強がりも、この男の前ではどうやら無駄らしい。
そんなことを思いながら、広げた際に鼻をくすぐった奴の甘い匂いのもとへと、俺はゆっくりと体を預けにいったのだった。
おいで
(とろけるような甘い言葉で)
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