連載番外編2

□もうひとつの第22話/言葉の意味
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半球型のドームを背に、固定されるようにコードやベルトで繋がれた少年がひとり座っている。
照明で紫色に染まっているその空間は『部屋』と呼ばれていた。

どこか遠くを見つめてボンヤリとする少年の心には、ある言葉が音ととして残っていた。


『自分にとって捨てたくないものが ヒツヨウ なんだよ、ロロ』


よく分からないことを言われた。
意味は分からないけど音として自分の中で残っている『それ』

よく分からないから何も感じなかった。
けれど、自分の中で残っているのはなぜだろう。


『誰かに捨てろって言われても簡単に捨てないで。
それがロロにとっての タイセツ なものなんだから』



こうも言っていた。
必死な声で自分に。

「たいせつ…」

分からない。
その言葉の意味が。
どんな時に使う言葉なのか。

どうしてその言葉が消えないんだろう。
頭の中に残っているのだろう。


『待っててね、ロロ。
あたし、後で会いに行くから』



早く来てほしい。
言葉の意味を教えてほしい。
知りたい――――そう強く思った。

目の前のモニターにノイズが走る。
真っ暗だった画面に一人の人間が映し出された。

僕を拾ってくれた人。
ギアス嚮団の嚮主様。

『ロロ。
今日の仕事はどうだった?』

嚮主様が必ず聞いてくる質問。
僕はいつもと同じ答えを返す。

“ギアス発動には何の支障もなかった”
“暗殺対象は問題なく処理できた”

嚮主様はいつもの表情で聞く。
それで終わると思っていた。

『キミが連れてきたあの娘、後で会いに行くってキミに言ったよね?
会いたい?』

思ったままの答えを口にするのを、なぜか僕はためらってしまった。
嚮主様の問いに答えられなかった。

「ふぅん。
会いたいのか。
だけどそれは無理だよ。
あの娘はキミに会いにいけない。
だって僕が消したから」
「けした…?」

『消した』
それは教えられた言葉のひとつだ。
僕がいつもやっている。

嚮主様が。
あの人を。

あの人が僕の前に二度と現れない―――そう理解した途端、息ができなくなった。
時間が止まったように何も考えられなくなる。

どれくらいの時が過ぎたんだろう、気がつけばモニターに嚮主様の姿はなかった。

苦しさは無くならない。
胸を詰めるように膨らんでいく。
どうしてこんなに苦しいんだろう。
どうして。

その理由が僕には分からなかった。




















その気持ちが何なのか、分かったのはずっとずっと後だった。







 

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