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□君の場所H
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暗闇の中、ずっと親父の声が響いてた。
『お前に生きる価値などない。お前の居場所はどこにも無い。だから死ね』と…
それは呪いの言葉のように俺に纏わり付き、振り払っても振り払っても消える事はなく。
俺は、うずくまりその声を聞くしかなかった。
俺の心に染み込むまで、ずっと…
「…ら?ご…で…?」
遠くで、誰かの声が聞こえて。
その声に導かれるように意識が浮上していくと…
「ごくでら!獄寺!」
それが山本の声だと分かった。
けれども…
これが本物の山本なのか夢の続きなのか、俺には判断がつけられない。
瞼を開けたとしても、俺にはもうお前の姿が見えなのだから。
「獄寺!目が醒めた?お前意識を失ったままずっと魘されてて…このままだったらどうしようって、俺…良かった…」
温かいぬくもりと山本の安堵の声が耳のすぐ傍で聞こえた。
山本の言葉でフラッシュバックを起こしかけてた事を思い出す。
だけど
お前は本当に本物か?
俺はまだ、夢の中をさ迷ってるのではないか?
何処までが夢で何処までが現実か、俺は何処までを信じればいいんだろうか。
寧ろ全部が悪夢だったら…
山本と喧嘩別れしたあの日からの事が全部夢だったら…
俺が儚い希望に縋り付き囚われていると、抱き締める力が強くなり、そして…
「獄寺、お帰り。」
優しい声が降ってきた。
「ゃ…も、と?」
俺の声と同時に抱き締める力が優しく強くなり、やっぱりこれは現実なんだと思い知らされる。
「俺、お前が辛そうなのに何もしてやれなくてごめんな?腕の傷、手当てしてもらわなきゃな。」
山本の声が少し震えてるのに気付き、俺はその胸に額を押し付けた。
俺はまた、フラッシュバックを起こしたらしい…
漸く落ち着いてきたが悪寒や吐き気、言いようのない虚脱感がない交ぜになり俺の身体に纏わりつく。
何時まで経ってもその感覚は慣れることはなく俺を苛んで。
徐々に感覚が戻るにつれ話し声が聞こえ、その声がリボーンさんだと分かった。
少し離れた場所で声を潜めて話てるんだろうけど、リボーンさんの声は良く通るからまる聞こえだった。
「ツナ、山本、おまえ達の休みもそろそろ終わるしやることが出来たからな、俺達は明後日日本に帰る事にした。」
リボーンさんの言葉にえ?と驚く声が聞こえて。
「こんな状態の獄寺君残してやることって何だよ!」
10代目のお言葉にリボーンさんは呆れたように言葉を続ける。
「獄寺の回復はもう無理だろ。今後の事を考えて代わりの守護者を見つける。」
『やっぱり』それがリボーンさんのお言葉を聞いた俺の感想だ。
こんな身体じゃ、もう10代目をお護りするなんて到底無理な話だ。
それは俺が一番良く分かってる事。
「何言ってんだよリボーン!!そんな簡単に言うなよ!そんなモノみたいに、使い捨てみたいに言うなよ!!」
10代目、何をそんなに怒ってらっしゃるんですか?
「だからお前は甘いんだ!ボスとして、時には非情な選択も迫られる。1人を大切にするのもいいがそれが返ってファミリーの命取りになる事もあるんだぞ!良いかツナ獄寺に話とけよ!」
そうです10代目、リボーンさんの仰る通りです。
1人が犠牲になってファミリーが救われるなら、その犠牲になった奴もきっと喜びます。
自分のせいでファミリーに危機が及ぶのなら…
それならいっそ…
「だからって獄寺君をこのままにして日本になんて帰れない!リボーン!リボーン!!」
俺を、捨てて下さい10代目。
「獄寺君、起きてる?」
遠慮がちに俺を呼ぶ10代目のお声が聞こえた。
「ど、したんですか10代目?」
俺の問い掛けにうん…と言葉を濁される10代目。
「あ、のね…ちょっと、話が…」
言い辛そうに言葉を出す10代目に申し訳なくて、「俺もお話があります」と声を掛けた。
「これを…」
何?と聞いてくる10代目に俺は、嵐のリングを渡した。
俺から抜けると言えば、10代目に変な気を使わせなくても済むから。
10代目に、負い目を背負わせなくて済むから。
「ご、く、でら君…君、もしかして…」
あの時の話聞いてたんじゃ、そう続ける10代目のお言葉を遮り、俺は首を振った。
「こんなんじゃ、10代目のお役に立てないと悟っただけです。不甲斐ない部下で申し訳ありませんでした。」
俺が笑顔で言うと、息を詰まらせながらも小さく呟く10代目のお声が聞こえた。
ごめんね、と…
いいえ、あなたが謝る必要は有りません。
寧ろ…
俺の方こそご迷惑をお掛けしました、と謝るべきでしょう。
俺は、最後の最後に、あなたのお役に立てたでしょうか、10代目…
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