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□もしも…
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穏やかな陽気に誘われて街に出ると…

何時も草食動物達と群れている筈のあの子が…

今日は独りで歩いていた…

なんだか、ちょっと寂しそうに…

暫く、彼の様子を見ていると…

煙草が吸いたくなったのか…

ジッポーを取り出し火を着けようとしてるけど…

相変わらずバカだね…

火が着かないなら止めればいいのに…

それでも悪戦苦闘してる彼を暫く見てたけど…

彼の意識を僕に向けたくて…

彼にちょっかいを出しに行った…

「なぁっ!!ひ…雲雀!!」

僕の姿を見て警戒心剥き出しにして…

お得意のダイナマイトに手を伸ばそうとしてるけど…

もう忘れたの?

火…

着かないでしょ?

それに…

今日は争うつもりはないし…

「ちょっ!!何だよおい!!何すんだ!!」

キャンキャンと騒ぎ、まだ警戒している彼の腕を掴み、僕は…

僕が一番好きな場所を目指した…



並盛中応接室

「お、おい…休みの日まで学校に来るって…どんだけ好きなんだよ…」

呆れながら彼はそう言って…

まだ分からないなんて…

ホントにバカだね…

折角…

君と2人になる為に来たのに…


「まぁ、座りなよ…」

上質な革張りのソファーを指差してすすめれば

隼人は無言で頷いて…

「ねぇ…今日は群れてないんだね…」

居心地悪そうに落ち着かない彼にそう言えば…

ちょっと寂しそうに“あぁ…”と答えるだけで…

「そんなに寂しいなら…僕の傍に居ればいいじゃない…これからもずっと…」

僕の言葉に翡翠色の瞳が大きく見開いて…

「テメーの傍に居れば絶対退屈しなさそうだな」

なんて笑って…

やっと、笑ったね?

やっぱり君には笑顔が一番似合ってる…

無邪気に笑う隼人が、僕は一番好きだから…

何時も思うよ…

沢田綱吉に向ける笑顔を僕に向けさせたいって、ね…

こんな事考える僕もかなりのバカなんだろうね…



「これ、食べなよ」


唐突に出された物を訝しげに見る隼人。

そんな顔も可愛いよ…

「何だ、コレ?」

初めて見るのかキョトンとした瞳を僕に向けて…

「柏餅…端午の節句に食べるお餅」

不思議そうに眺める隼人に、食べたことないの?とバカにしたように聞けば睨み返されて…

ホント…

負けず嫌いなんだから…

そんなとこも可愛いけどね…

「たんごのせっく?」

聞いたことない単語なのか…

首を傾げて聞き返して…

ちょっと…

そんな顔すると柏餅じゃなくて僕が君を食べちゃうよ?

何て…

そんな事考えてるなんて知らない鈍感な隼人はまだ可愛い顔して…

もう…

ホントにこの子は…

「こどもの日の事」

やっと納得いったのか…

大きな口開けてパクリと食べれば“うまい”何て声上げて…

その様子を見てた僕の顔も何だか緩んできて…



穏やかな陽気の…

穏やかな午後に…

穏やかな気持ちでこの子と過ごせる時間を…

今日だけは…

感謝しても、いいかもね…

そんな風に思う僕も…

かなりのバカだね…



だけど…

そんな穏やかな時間も長くは続かなかったけどね…



突然隼人の携帯が鳴りだして…

相手は聞かなくても分かるよ…

草食動物の山本武でしょ?

「ちょっ…わりぃ雲雀」

そう言って応接室の外に出た隼人…

もう…

終わりの時間が近づいてるんだね…

暫くして戻ってきた隼人は済まなそうな顔して

「わりぃ雲雀…俺…そろそろ行かねぇと…」

そんな隼人をちょっとだけ困らせたくて…

「隼人、ちょっとコッチ来て…」

そう言えば素直に僕の傍に来る隼人…

本当に、無防備だね…

僕の隣に座った隼人の眼に手を当てて…

視界を遮った瞬間、隼人の唇に自分の唇を重ねて…

ただ押し当てるだけの行為だけど…

それでも僕には意味のある行為で…

隼人の唇はとても柔らかく、とても甘くて…

名残惜しく思いながらも唇を離すと…

隼人はまだ固まってて…

濡れた唇を舌でペロッと舐めた瞬間隼人は我に帰って…

「え…?あ…?何…?」

真っ赤な顔して慌てふためいて…

本当に可愛いんだからこの子は…

「山本武が待ってんでしょ?早く行きなよ…早くここから出ないと…噛み殺すよ…」

そう言ってトンファーを構えれば、隼人は慌てて出て行って…



応接室の窓から走る隼人の姿を見ながら…

もし…

今日、僕の誕生日だと知ったら…

君は僕と一緒に祝ってくれたかな…

もし…

君が僕の傍に居てくれたら、来年も、再来年も、ずっと先の誕生日も、一緒に祝ってくれたかな…

そんなバカな思考に侵されながら僕は…

隼人の夢を見る為にソファーに身体を預けた…








fin

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