(カゲロウプロジェクト・キド×モモ成り代わり)
キドは、女の子だ。
たとえ一人称が「俺」でも、言葉遣いが男の子っぽくても、カノより強くても。
キドは、女の子である。
「なぁ……キサラギ……」
「や、あ、あの、一旦落ちつきましょう?団長さん!」
キドは女の子である。
そのはずなのに、何故私はキドに迫られているのだろう。
何故私はキドに熱っぽい視線で見られているのだろう。
『目を奪う』能力はキドには効いていないはずだ。
「アタリメを毎日買ってやってもいい」
「そんなので釣られませんから!!」
「なら、おしるこサイダーもつける」
言葉だけ聞けばふざけているように見える。
けれどこっちは本気だ。
私は本気でキドから遠ざかっている。
キドは本気で私をじりじりと追いかけてくる。
まるで、獲物を捉えた肉食動物のような目で。
「ちょ、ちょっと待って!待ってください団長さんっ」
「待てない」
「いやいや!できますって!シンタローでもできますよ!」
しまった、ついシンタローと呼び捨てで呼んでしまった。
あそこはお兄ちゃんと言うべきだった。「如月桃」として。
「シンタロー…?」
「ひ…っ」
キドの目が、一段と鋭くなる。
元々あまりいいとはいえない目付きが更に悪くなる。
さっきよりも少しだけ低い、腹から出したような声でキドが紡いだ。
「それは誰だ?キサラギの大切な…大事な人か?」
「シ、ンタローは…大事、ですけど…っ」
兄なのだから。
気分的には兄ではないが、「如月桃」の兄なのだから大事なのは当然だ。
それなのにキドはより一層目を鋭くした。
「…どういう関係だ…?まさか、彼氏じゃないよな…?」
「シンタローは兄です!彼氏なんかじゃ…」
確かに、兄と妹のソレとは少し違うけど。
兄弟の一線を越えてしまっているけれど。
その事実だけは、誰にも言ってはいけない気がした。キドにも、エネにも、母にも。
そんなことを考えていると、ついに背中が壁についた。
トン、と冷たい打ちっぱなしの壁にぞわりと冷えた。
「……そうか…兄なのか」
「そうですよ…だから、落ちついて」
「だが大事な人というのは少し、許し難いな」
バン!、と私の顔の横にキドのスラリとした両腕が逃げ道を塞ぐようにおかれた。
いわゆる壁ドンというやつだ。まったく萌えない!
「キサラギの大事な人は、俺だけで十分だろ…?」
「ぇ……」
キドに、ぎゅう、と強く抱きしめられた。
どうしてだろう、女の子同士だというのに背筋が伸びるのは。
女の子同士のハグはもっとフレンドリーな感じではなかっただろうか。
「団長さ……」
「キサラギ、キサラギ、キサラギ…」
怖、い。
まるで呪文のように私の名前を連呼するキド。
その回数を重ねる度に腕の力が強まっていく。
痛いし、怖い。
でも、何故か逃げてはいけない気がした。
その腕を振りほどいて、この場から走り去って。
それをしてしまったら、きっともう『物語』は元の道に戻らない。
それに――そんなことをすればきっと、キドは壊れてしまう。
「……キド、さん」
「!」
キドの背中に腕を回した。
思っていたより、とても小さな背中だった。
「キサラギ……好きだ…たとえ世界から消えても、お前がいれば俺は…」
ああ、これが巷でよく聞く「ヤンデレ」というやつだ。
まったく、まったく萌えないではないか!
Those who act as Ai morbidly
病的に愛する人