短編夢

□彩果て
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まだ俺が、僕だった時代の話。





その頃の我が家は、二人暮らしに近かった。

母が寂しがるといけないから、極力一緒の時間を作った。食事は長くたらたらと食べて、宿題はリビングでやって、自分の部屋はあったけど一人になるのは寝る時だけ。父の帰りを待つ母を、リビングで起こした事は何度もあった。

家にいない父と姉を恨んだ事はない。だって、事情はよく分かっているから。年齢のわりに達観していると、思慮深さは父によく似ていると言われた僕の性格は、虚しかった。

この寂しさを誰にぶつければ良いのか。
分からない分、まだ子供。

その日は、忘れてしまったけど何故か急いでいて、あまりよく噛まずに朝食を済ませた。鞄を背負い、行ってきますは言ったけど、行ってらっしゃいを言った母の顔を見ていない。

通学途中で、宿題を家に置いてきた事に気付く。提出期限は明日までだったから、焦る必要はない。
時計を確認する、走って戻れば余裕だ。

「母さん」

母は、僕と姉を十七で産んだから、まだ二十九歳だった。子供の僕から見ても綺麗な人だった。
父が、僕と姉は良いところは母に、悪いところは自分に似たと評するくらい、明るい人だった。

太陽みたいな人、だった。
フロンティアの人工太陽などではなく、父と母が生まれた地球を照らす、本物の太陽のような。

だからその日、僕らは太陽を失った。






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