キマグレSS部屋
□閉ざされた世界で、
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ぼんやりとした蝋燭の光のもと、窓辺のカーテンが翻るのを見た。
―――また窓を全開にして寝られたのか、このお方は。
微笑みと嘆息をもらしたファラオは、手にしていた燭台をベッドサイドに置き、安らかに眠る上司を起こさぬよう、カーテンに手を伸ばした。
カーテンの隙間から、冥界の暗すぎる夜の空が見える。
―――月も太陽もないこの世界で、貴方は本当に満足されているのですか?
外の空気の冷たさに少し身震いし、遥か彼方から聞こえてくる死霊たちの声を遮るかのように窓を閉める。
―――やはり貴方には。
ふとベッドの上から衣擦れの音が聞こえたが、寝返りだったと知りまたため息をつく。
―――くすんだ暗い空より、銀の月や黄金の太陽がお似合いだ。
そっと頬に手を伸ばし、優しく顔を包むと、触れるだけの口づけをする。
睫毛が触れそうな位置でそっと見つめ、離れていく。
僅かな逢瀬。
―――白く気高い心、赤く燃え上がる魂。
貴方を彩る全てが愛しい。
掛け布団からはみ出る腕を、そっと布団の中に戻してやる。
『お慕いしています、愛しています、好きです』
どれだけ言っても足りない。
どれも言うことは許されない。
感情だけを唇にのせ、夜風で冷えきった頬にもう一度口づけ、燭台を手にして潔く踵を返した。
―――越えられないと解っても、止まらない感情は罪ですか?
他部署の同僚に相談してみようと思った。
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