キマグレSS部屋

□終焉
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黄金の聖衣を久しぶりに身に付けた。

久しぶりに―――そう、243年ぶりに。





「お呼びでしょうか、教皇」

珍しい、否、初めての事ではないだろうか……。
―――教皇からお呼びが掛かった。

アフロディーテは聖衣姿で、人払いの済まされた教皇の謁見の間に膝をついていた。

彼が呼ばれるときは、大抵デスマスクやシュラ、その他同胞と同時に勅がくだる場合が多い。

今日は彼一人のようだ。


頭を伏せていた彼は、教皇シオンが奥から出てきたのを感じた。

―――?

しかし、今日の教皇はいつもと違う。
同時にそう直感した。

小宇宙が黄金の輝きを放っている。
そして、聞こえてきたのは法衣の衣擦れではなく、特徴ある重厚な金属音。


―――これは……。

「顔を上げよ、アフロディーテ」

静かな空間に、張りのある声が響く。

多少の目眩を感じつつ、彼はゆっくりと顔を上げた。


「っ!?
―――教皇、そのお姿は……」


十二宮第一の宮の守護星座の聖衣を身に纏った、教皇シオンが居た。

黄金に煌めく牡羊座の聖衣は、二歳年下の同胞に引き継がれたはず……。

「どうだ?
……私の聖衣だ」

アフロディーテはひどく混乱した。

「それは……、ムウの……」

彼がアリエスと呼ばれたのは200年前のはずだ……。


「―――自分の聖衣というものは、良いものだな」

独り言のように言いながら、ゆっくりと近づいてくる。

「立て、魚座」

惑うアフロディーテは、それでも教皇命令に従った。

至近距離で見つめられる。

優しい、慈しむような、慈愛の滲むような瞳。
―――今まで見たことの無いような。
そして、そんな表情をされる覚えが、自分にはない。


そっとのびてきた温かい指が、頬に触れる。

深い、紫水晶の瞳に見入られ、動けなくなったところを抱きすくめられる。

「教、皇……、お止め、くださ……―――」

「待っていたぞ、アルバフィカ」

とっさの事に驚き、喉に絡み付いた声。
そして、耳を疑いたくなる名前。

私は、アルバフィカではない……。


「違います、私は、アフロディーテです―――」

誰かを呼ぶべきか。
声をあげようとして本格的に身体が動かないことに気づく。
―――念動力だ。

「待っていたのだ、243年間、ずっと……」

目眩が激しくなる。

「教皇……っ」

アフロディーテの背に腕をまわし、その肩口でシオンが呟く。

「我等の間に、距離など無いのだ」

「っ!」

瞬く間に牡羊座と魚座、二人の聖衣が消え、部屋の隅に収まった。
アフロディーテの呼び掛けにも応えようとしない。
これが修復師の能力―――。

「時をも越えられる」

お互いに聖衣の下の薄着になり、より身体を密着させられる。

「やめて、くださ……、」

髪を撫でられ、

「このような、細い身体で……、たった独りで敵に向かっていって……」

「教皇……、
―――やめ、ろっ、シオン!!」

怯えた表情が怒りの表情に変わる。

シオンは笑った。

「アルバフィカ、愛している」

「そんな戯れ言はいらない!!
離れろ、シオン!!」
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