学パロスペース

□貴方のチョコを
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「すみません」

長い銀糸の髪を流し、項垂れて私に謝る恋人にして教え子ルネ。


「そんなことを言われましても、今更……ねえ?」

困ったような表情がまた可愛く感じてしまう。


だからこそ、いじめたくなるのだ。





ルネが差し出したのは、綺麗にラッピングされた包み。
その中身は、手作りチョコではなく、どの季節でも売っているデザートチョコ。



「今日は何月何日ですか?」

「3月5日……です」

「もうホワイトデーですよ」

「すみません……」



ミーノスだって知っていた。
ルネは最近本当に忙しかったのだ。

学年末テストに大学オープンキャンパス、英検、漢検、数検……。


将来、裁判官を目指すルネとしては、どれも外せない大切なものだった。



「あの……、受け取っていただけないのでしょうか……?」


恐る恐るといった風に見上げてくる。



「私も、バレンタインデー当日に沢山の方から頂きました。
アテナ理事長、パンドラ先生をはじめ、校外校内の方から……」


「……すみません」

消え入りそうな声。


―――そろそろか。





「……ルネ」

甘く囁きながら華奢な身体を腕に収める。

「せんせ……」


「特別に受け取ってあげますよ……。
ただし、来年からは無いと思いなさい」


「はい……」


ルネの手から包みを受け取り、涙の溢れそうな目元に唇を寄せ、更にルネの唇にも触れるだけのキスをする。


「ありがとうございます」


微笑む彼が愛しい。




「このまま数研(数学研究室)に連れ込みたいところですが……。

―――これを」


ミーノスはスーツのポケットから睡眠促進剤を取り出し、ルネに手渡した。


「飲んで今夜はさっさと寝なさい。
どうせ今朝も三時間ほどしか寝てないのでしょう?」


「……すみません、最近ずっと徹夜です」


「……」




―――冗談抜きで、大丈夫ですか?





それでも、しっかりとした足取りのルネを見送り、ミーノスは彼のくれた包みを手にした。










―――本当は、本当は他人のチョコなんて、受け取って無いのですよ。

全部断りました。

……理事長と保健医は別として。

ずっと待っていましたよ、貴方を。

貴方のチョコを―――。









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