□知ってる事、知らない事
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授業中、俺は前の席を見る。

前を見るんじゃなく、前の席の瀬川を見る。

でも、ソイツは俺の視線に気づくわけも無く斜め前に視線を送る。

ソイツは俺と同じ理由で水谷を見ている。

水谷はやっぱり気づかない。

アイツもそのまた前に視線を送っているから。

斜め前の篠岡を見てるから。

自分で判っててもこんなの馬鹿みたいだと思う。

でも瀬川はそれを見て必ず切なそうな顔をして俯くんだ。

俺もそれを見て切なくなる。

でも、ソイツは性懲りも無く水谷を見る。

って言ってるところで俺も見てるんだ。

ったく、馬鹿みたいで笑えねェ。

でも確かに切なくなる。





俺だったらそんな顔させねェのに。


俺だったらお前を見るのに。


俺だったら笑わせてやるのに。


俺だったらお前を選ぶのに。





でも、お前は水谷を見るんだよな、

本当、笑えねェーよ…笑えねェ。



今度は俺が俯く番だった。






知ってる事、知らない事

なあ、お前は…

瀬川は知ってるんだろ?


水谷が篠岡のこと好きなこと…


瀬川は知らねェだろ?


俺が篠岡の好意に気づいてんの…


でも、



――…俺はお前が好きなんだよ、








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