□流れた涙は止まらない
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今日の部活の阿部くんは、阿部くんらしくなくて。

何処か時間を気にしているようで落ち着きがなかった。

休憩になって監督が阿部くんを呼んで話をしていた。

それから何故か阿部くんは校舎の方へ向かって歩いていった。

忘れ物したのかな、何て思って珍しいなあと彼の背中を見つめた。

それから中々帰ってこなくて近くに居た水谷くんに阿部くんを探してくると伝えて校舎に向かう。

ひとつだけ異様なドアの開き方にここから入ったのかと中を進む。

彼のユニホームから落ちたであろう砂を辿って追いかければ図書室で。

ここに何の忘れ物だろう、なんて思いながらドアをスライドさせたら。

聞こえたのは好きな人の残酷な一言。




「俺は由梨が好きだ。」




ガタンと驚きと哀しみと複雑な感情に動揺してドアに寄り掛かり大きな音を立てた。

その音に気づいて阿部くんと由梨ちゃんがわたしを捕らえた。

阿部くんは直ぐに瞳を逸らしたが由梨ちゃんは驚愕と困惑と悲哀に大きく瞳を見開いていた。

なにか、何か言わないとの一身で口を動かすがおぼつか無い。

状況を理解した頭に、目が熱くなって視界が揺らぐ。

わたしは逃げるようにその場を駆け出した。

後ろに私たちを呼びに来たような水谷くんがいて。

彼も驚いたようにわたしたち三人を見ていた。

涙を見られたとか、そんなことより早くここから離れたくて。

一心に足を動かして、でもグラウンドには戻れなくて、戻りたくなくて。

帽子を深く被って監督に無理を言って早退をした。

その間も涙はずっとずっと流れて。



由梨ちゃんは応援してくれていたんじゃないのか、とか

阿部くんは由梨のことが好きだったからわたしにも話しかけてくれていたのか、とか

…あの後ふたりはどうなったのか、とか



言いたいことも聞きたいことも沢山あったのにわたしは家に着いて泣き崩れるように座り込んだだけだった。





流れた涙は止まらない


辛くて哀しくて寂しくて。
涙は枯れることを知らないように流れ続けた。

わたしはふたりが、
あのめんばーがだいすきだった。






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