□放課後、あの図書室で
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会うなら今日だと決めていた。

今日は部活がミーティングで、ばっちりと言っていいほどタイミングが良かった。

後回しにするのも、先延ばしにするのも、言い方は違ってもそれは逃げだって思うから。

ミーティングを終えてから早足で図書室へと向う。

途中花井からの視線が痛かったが、花井を見ることなくただ足を動かした。

ドアをスライドする音が図書室に響く、それに反応するように人影がゆっくりとこちらを向いた。




『…阿、部…』

「…待たせて悪ィ。」




あの日と同じ様にドアを閉めて由梨に近づいた。

由梨は確認のために顔を上げただけでそれから直ぐに顔を下にした。

それに少し苦笑してから彼女の目の前に立つ。ピタリと止まった足に由梨はゆっくりと顔を上げて俺を見た。

バチリと彼女の大して大きくも小さくも無い漆黒の瞳と目が合う。彼女の瞳には困惑の色はあったが何処か意思が固まっているような瞳をしていた。

それに俺は息を飲むと由梨がその口をゆっくりと開いた。




『手紙、ごめん…ね。』

「…、」

『…あと、目、逸らして、ごめん…逃げて、ごめん、ね。』




彼女の口から発せられたのは謝罪。

そう言ってから、彼女はふっと見詰め合っていた瞳を下へと向け、そのまま俯いていく。

それに合わせて、俺の中で何だか言い表せない衝動に駆られて由梨に手を伸ばした。




『…告白、だけどっ!?』

「…っ、」

『ちょっ、阿部っ!?』

「……じゃ………のか…?」

『…え?』




由梨の腕を引っ張り、掴まなかった逆の手を彼女の頭に添えて抱きしめた。

案の定彼女は慌てたような声を出して俺の胸板を押すけど、その力の差は愕然だった。

暴れないように更に抱きしめる力を強めて呟いた。

それはずっとずっと心の中で彼女に問いかけていた言葉で、ずっとずっと聞きたかったこと。




「俺じゃ、駄目なのか…?」

『っ!』

「…代わりでも良い。」

『っ、…あ、べっ…』

「代わりで良い、俺はお前の、由梨の隣に居ちゃ駄目なのかよっ…!」




その一言に彼女は判りやすいほど、大きくビクリと反応して固まった。

その様子にゆっくりと腕の中の由梨を見ると動揺が隠せないように目を泳がしていた。

それを見つめてからもう一度彼女を抱きしめた。今度は優しく、それでも離さない様にしっかりと。




『…んで、なんで、そういうこと、言うかな…』

「…由梨、」

『…あたし、最低だよ…阿部を、利用…するんだよ?…阿部を、傷付けるかもしれない、ううん、傷付けるんだよっ…』

「…ごちゃごちゃ考えんな、俺が言い出したんだよ。利用?上等じゃねーか、されてやる。俺はお前の隣に居てェんだよ。由梨に隣に居て欲しいんだよ。」




ぎゅう、と抱きしめる力を強める。こいつに俺の気持ちが伝わるように強く強く。

由梨は戸惑いながら堅く握っていた手をゆっくりと俺の背中に回していく。

そして、きゅっと俺の制服を握ったのが判った。




『ごめんなさい、ごめんなさい…』

「…謝ってんなよ…」




彼女は縋るように抱きしめ返す力を強くしながら、小さな声で謝罪を続けていた。






放課後、あの図書室で

それは最低だと罵られる関係の始まりかもしれない、

間違った選択かもしれない、



それでも、俺と由梨にとっては最初の1歩だった









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